Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

第七十四回 『傑作歌選第二輯 武山英子』武山英子

第七十四回 『傑作歌選第二輯 武山英子』武山英子(大正四年)<選歌10首>(全197首より) 寵さめて凭(よ)るにさびしき朝の窓何の傲りぞ緋牡丹の花 幣(ぬさ)を手に雁を見おくる人わかし加茂のやしろの秋の夕ぐれ 湯あがりのかたちつくろふ夕かがみ対(…

第七十三回 『濁れる川』窪田軽穂

第七十三回 『 濁れる川』窪田軽穂 (大正四年)<選歌17首>(全1011首より) 麦のくき口にふくみて吹きをればふと鳴りいでし心うれしさ 麦の穂のしらしらひかり春の日のたのしかりし今日も終らんとすぞ 生まれては初めて見るとまさやかに青き五月の天(あ…

第七十二回 『切火』島木赤彦

第七十二回 『 切火』島木赤彦 (大正四年)<選歌8首>(全263首より) 女一人(ひとり)唄うたふなる島踊りをどりひそまり月の下に 椿の蔭をんな音なく来りけり白き布団を乾(ほ)しにけるかも バナナの茎やはらかければ音もなし鉈(なた)をうち女なりけ…

第七十一回 『明る妙』尾山篤二郎

第七十一回 『 明る妙 』尾山篤二郎(大正4年)<選歌7首>(全388首より) 曙の風のあゆみもはろやかにさてこそ山はそびえたりけり ながれよりかなしみ来るながれより鋭(と)きかなしみの色てりかへす わが杖木、真冬のまさごつくなべにくやしくあとぞの…

第七十回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(27)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑬

第七十回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(27)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑬ ー基盤模索時代(1)ーp131 『白鳳』の後記では、佐美雄は「かへりみると昭和四、五年の二年間はだいたい作歌を中止している」「昭和六年になつて「短歌作品」…

第六十九回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(26)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑫

第六十九回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(26)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑫ 『白鳳』の世界—シュールレアリスムの内面化 p126 1、《野》の発見 野にかへり野に爬虫類をやしなふはつひに復讐にそなへむがため 『白鳳』の巻頭歌である。…

第六十八回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(25)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑪

第六十八回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(25)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑪ 『白鳳』の世界—シュールレアリスムの内面化 p126 『白鳳』は佐美雄の本としては目立たない歌集である。内容的に地味だということではない。出版経緯がこの歌…

第六十七回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(24)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑩

第六十七回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(24)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑩ 〇『植物祭』の史的意義の補足(p114) モダニズムとプロレタリアといった区分を抜きにして、昭和のはじめに登場した新興短歌は、大正期短歌の否定をモチーフ…

第六十六回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(23)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑨

第六十六回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(23)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑨ 〈『植物祭』の史的意義 〉 〇外的な枠組みが本質的な問題ではない大切なのは“方法”である(という主張)。 p105 〇プロレタリア短歌からもモダニズム短歌から…

第六十五回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(22)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑧

第六十五回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(22)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑧〇表現の特質 ・自己の客体化 ・自他の二重性 ・自他の交換 ・既成への否定意志今回は、上記の「既成への否定意志」についてを要約します。 〈表現の特質ー既…

第六十四回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(21)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑦

第六十四回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(21)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑦ 〇表現の特質 ・自己の客体化 ・自他の二重性 ・自他の交換 ・既成への否定意志今回は、上記の「自他の交換」についてを要約します。 〈表現の特質ー自他の交…

第六十三回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(20)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑥

第六十三回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(20)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑥ 〇表現の特質 ・自己の客体化 ・自他の二重性 ・自他の交換 ・既成への否定意志 今回は、上記の「自他の二重性」についてを要約します。 〈表現の特質ー自他…

第六十二回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(19)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑤

第六十二回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(19)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑤ 〇表現の特質 ・自己の客体化 ・自他の二重性 ・自他の交換 ・既成への否定意志 今回は、上記の「自己の客体化」についてを要約します。 〈表現の特質ー自己…

第六十一回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(18)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ④

第六十一回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(18)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ④ 1、誕生から『植物祭』までー④〈『植物祭』巻頭歌から読み取れる特徴 〉 ・表現の斬新さを求める姿勢 巻頭歌 かなしみを締(し)めあげることに人間のちから…

第六十回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(17)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ③

第六十回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(17)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ③ 1、誕生から『植物祭』までー③ 〈『植物祭』の世界 〉 ー概略ー 〇表紙へのこだわり 絵画を志していた前川佐美雄は、本人が衝撃を受けた古賀春江の絵を表紙に…

第五十九回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(16)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ②

第五十九回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(16)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ② 1、誕生から『植物祭』までー② 再上京した佐美雄は、口語歌運動からでた「プロレタリア歌人」と「モダニズム歌人」、いわゆる革新派の新興短歌、そこからま…

第五十八回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(15)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ①

第五十八回 ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ① 1、誕生から『植物祭』まで 1903年 明治36年 2月5日 奈良県 忍海(おしみ)にて、前川佐美雄誕生 大正10年 4月 「心の花」誌上デビュー(18歳) 大正11年 上京 大正12年 古賀春江の絵画を見て…

第五十七回 『蹈絵』白蓮

第五十七回 『蹈絵』白蓮(大正四年)<選歌8首>(全319首より) われといふ小さきものを天地の中に生みける不可思議おもふ 蹈絵もてためさるる日の来しごとも歌反故いだき立てる火の前 吾は知る強き百千の恋ゆゑに百千の敵は嬉しきものと 天地の一大事とな…

第五十六回 『潮鳴』石榑千亦

第五十六回 『潮鳴』石榑千亦(大正四年) <選歌8首>(全377首より) 天も地もしめりもちたる曇り日に 白樺の木の目にきらきらし 旅にして剪りたる爪の 黒くなりて又剪りぬべく 日数経にけり 日は暮れぬ 山も 野も 海も見えずなりて 帰るべき家のただ目に…

第五十五回『生くる日に』前田夕暮

第五十五回 『生くる日に』前田夕暮(大正三年) <選歌九首>(全534首より) わが行くはひろき草場のはつ冬のうす日だまりぞ物思ふによし 塚(つか)の如くつまれし草に火を放て焔ちぎれて青空にとべ 走り行く舗石(しきいし)の上、走り行く深更(しんか…

第五十四回 『夏より秋へ』與謝野晶子

『夏より秋へ』與謝野晶子(大正三年)<選歌十二首>(全 767 首より) 琴(こと)の音(ね)に巨鐘(きよしよう)のおとのうちまじるこの怪(あや)しさも胸(むね)のひびきぞ 人(ひと)の世(よ)の掟(おきて)の上(うへ)のよきこともはたそれならぬ…

第五十三回 『さすらひ』尾山篤二郎

『さすらひ』尾山篤二郎(大正二年)<選歌10首>(全544首より) 霧(きり)か、闇(やみ)か、樹間(こま)うす青(あを)くただよへりしたいままなる樹木(じゆもく)の呼吸(こきふ) 野(の)のなからひ、闇(やみ)のみどりのいやはてに光(ひか)るも…

第五十二回 『春かへる日に』松村英一

『春かへる日に』松村英一(大正二年)<選歌6首>(全454首より) 白き歯を見せてはよくも笑ひつる女の去りし家に夜の落つ 空の上ほのかに明るみ柔かみ雲の動くが見ゆる夕ぐれ われいつか己が心もうち忘れ夕ぐれ時の来るをば待つ 白き布取れば静かに子はあ…

第五十一回 『涙痕』原阿佐緒

『涙痕』原阿佐雄(大正二年)<選歌4首>(全464首より) この涙つひにわが身を沈むべき海とならむを思ひぬはじめ 生と死のいづれの海にただよへる吾とも知らずいくとせか経む おなじ世に生れてあれど君と吾空のごとくに離れて思ふ 夕されば恋しきかたに啼…

第五十回 『旅愁』内藤鋠策

『旅愁』内藤鋠策(大正二年)<選歌9首>(全221首より) ほととぎす、胡桃若葉の岡つづき小雨に慣れし家のこひしき 鳩喚べば鳩はやさしくさびしげに人を見るなり秋風の家 うつむきてとみに心のおとろへをおもふ人あり夜の雨ぞする 掌(てのひら)の冷たか…

第四十九回 『日記の端より』尾上柴舟

『日記の端より』尾上柴舟(大正二年)<選歌13首>(全577首より) 温泉(ゆ)の烟凝りて流るゝ玻璃の戸に山の椿の一花ぞ濃き 風わたる梢を見ても胸をどるまこと山にて恋しきは海 動きては威をば損ずといひがほに立ちたる山も一言は云へ 新しき疲れの中に昨…

第四十八回 『かろきねたみ』岡本かの子

『かろきねたみ』岡本かの子(大正元年)<選歌8首>(全70首より) 力など望まで弱く美しく生まれしまゝの男にてあれ 血の色の爪に浮くまで押へたる我が三味線の意地強き音 朝寒の机のまへに開きたる新聞紙の香高き朝かな 三度ほど酒をふくみてあたゝかく…

第四十七回 『新月』佐佐木信綱

『新月』佐佐木信綱(大正元年)<選歌11首>(全300首より) あたたかき陸(くが)を慕(した)ひて数千(すうせん)の鳥(とり)むれ渡(わた)る松前(まつまへ)の秋(あき) 長崎(ながさき)の船出(ふなで)の朝(あさ)を小舟(をぶね)漕(こ)ぎ一…

第四十六回 『死か藝術か』若山牧水

『死か藝術か』若山牧水(大正1年)<選歌7首>(全386首より) 蒼(あを)ざめし額(ひたひ)つめたく濡(ぬ)れわたり月夜(つきよ)の夏(なつ)の街(まち)を我(わ)が行(ゆ)く ただひとつ風(かぜ)にうかびてわが庭(には)に秋(あき)の蜻蛉(…

第四十五回 『悲しき玩具』石川啄木

『悲しき玩具』石川啄木(明治45年)<選歌9首>(全194首より) 途中にてふと気が変り、 つとめ先を休みて、今日も、 河岸をさまよへり。 本を買ひたし、本を買ひたしと、 あてつけのつもりではなけれど、 妻に言ひてみる。 家を出て五町ばかりは、 用のあ…