第九回 正岡子規 『竹の里歌』
正岡子規 『竹の里歌』より十首 (明治30年~明治35年)
〈選歌十首〉
籠にもりて柿おくりきぬ古里の高尾の楓色づきにけん
試みに君の御歌を吟ずれば堪へずや鬼の泣く声聞こゆ
昔見し面影もあらず衰へて鏡の人のほろほろと泣く
仰むけに竹の簀の子に打臥して背ひやひやと雲の行くを見る
菓物の核を小庭に蒔き置きて花咲き実のる年を待つわれは
かきつばた濃き紫の水満ちて水鳥一つはね掻くところ
朝牀に手洗ひ居れば窓近く鶯鳴きて今日も晴なり
人も来ぬ奥山路の百合の花神や宿らん折らんと思へど
紙をもてラムプおほへばガラス戸の外の月夜のあきらけく見ゆ
歌の会開かんと思ふ日も過ぎて散りがたになる山吹の花
明治32年の歌より一首
三月九日秀真ほつまへ
明日みようにちは君きみだち来ます天気善よくよろしき歌の出来る日であれ
〈感想〉
この歌は、以前に読書会で皆で学んだ課題本(土屋文明編『子規歌集』岩波文庫1959)と一部重複して居ります。私の感想は、連作が良い、の一点。それから、全体を通して一番心に残ったのが、明治32年に詠まれた上記の歌です。