Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

第四十五回 『悲しき玩具』石川啄木

『悲しき玩具』石川啄木(明治45年)
<選歌9首>(全194首より)

途中にてふと気が変り、

つとめ先を休みて、今日も、

河岸をさまよへり。

 

本を買ひたし、本を買ひたしと、

あてつけのつもりではなけれど、

妻に言ひてみる。

 

家を出て五町ばかりは、

用のある人のごとくに

歩いてはみたけれどー

 

手も足もかなればなれにあるごとき

ものうき寝覚!

かなしき寝覚!

 

誰か我を

思ふ存分叱りつくる人あれと思ふ。

何の心ぞ。

 

昨日まで朝から晩まで張りつめし

あのこころもち、

忘れじと思へど。

 

この四五年、

空を仰ぐといふことが一度もなかりき。

かうなるものか?

 

何か一つ

大いなる悪事をしておいて、

知らぬ顔してゐたき気持かな。

 

薬のむことを忘れて、

 ひさしぶりに、

母に叱られしをうれしと思へる。 

 

『悲しき玩具』について
第二歌集。作者26歳時。岩手県出身。昭和45年に歿(26歳)。感想として、「自由への過信」、自由を求めすぎているのではないかと思えた。その自由の求め方は、社会への反抗期的な姿勢であったり、詩形への新しい挑戦であったり、若さ故の自由の求め方とも考えられる。長生きしていたら、どんな歌を作り続けたのだろうか、そう思わずにはいられなかった。


【参考・引用文献】 『現代短歌全集』第二巻  筑摩書房(1980)