第五十一回 『涙痕』原阿佐緒
『涙痕』原阿佐雄(大正二年)
<選歌4首>(全464首より)
この涙つひにわが身を沈むべき海とならむを思ひぬはじめ
生と死のいづれの海にただよへる吾とも知らずいくとせか経む
おなじ世に生れてあれど君と吾空のごとくに離れて思ふ
夕されば恋しきかたに啼きわたる雁をも見んと柱にぞ倚る
酒ほがひ宴のはての寂しさに身を噛まれつゝわが酔ひは醒む
『涙痕』について
第1歌集。作者22歳時。宮城県出身。明治21年生、昭和44年に歿(80歳)。明治37年に日本画修得の為、上京。明治40年に小原無紘(翻訳家)との恋愛問題から自殺未遂。この頃より歌作に熱中し、明治42年与謝野晶子に認められる。大正2年に「アララギ」に入会。大正10年、石原純との恋愛問題により「アララギ」を追われた後、女優や酒場のマダムなどを転々とするが、歌壇に復帰することはなかった。本書『涙痕』の序文に与謝野晶子と吉井勇が寄稿している。一本調子である。最後の「酒ほがひ宴のはての寂しさに身を噛まれつゝわが酔ひは醒む」は吉井勇の歌集『酒ほがひ』から来ているのだろうか。素材が恋についてのみであり、漫然とした感じがする。
【参考・引用文献】 『現代短歌全集』第二巻 筑摩書房(1980)