第七十一回 『明る妙』尾山篤二郎
第七十一回 『 明る妙 』尾山篤二郎(大正4年)
<選歌7首>(全388首より)
曙の風のあゆみもはろやかにさてこそ山はそびえたりけり
ながれよりかなしみ来るながれより鋭(と)きかなしみの色てりかへす
わが杖木、真冬のまさごつくなべにくやしくあとぞのこされにける
わがくしき心のきほひゆりおこしいたましき夏の花さきにけり
わが室(へや)にとふものなかれわが室(へや)はこのあさ陽(ひ)てりかげるものなし
すつきりと閉(き)せし玻璃戸(はりど)の青むかな真向(もろむき)に風はすさびやまなく
まつかうにながるる山は赤城山ふもとの木叢(こむら)それかとも黒し
〈メモ・感想〉
第三歌集(作者26歳時)。1889年12月15日‐1963年6月23日歿(73歳)。金沢出出身。心情を風景の描写に乗せて詠っていると思われた。言葉の運びが独特で、オリジナリティな言葉の運用をしていると感じられた。風景の描写を思わぬ角度から導入している点に、強く感心した。
【参考・引用文献】 『現代短歌全集』第三巻 筑摩書房(1980)