第七十二回 『切火』島木赤彦
第七十二回 『 切火』島木赤彦 (大正四年)
<選歌8首>(全263首より)
女一人(ひとり)唄うたふなる島踊りをどりひそまり月の下に
椿の蔭をんな音なく来りけり白き布団を乾(ほ)しにけるかも
バナナの茎やはらかければ音もなし鉈(なた)をうち女なりけり
まばらなる冬木林(ふゆきばやし)にかんかんと響かんとする青空のいろ
かへらんと今は嘆けれ青空に煙草ふかして見やりけるかも
さ蠅らと寄りあひて住める六畳の空気にたまる夕日の赤さ
わが家にこのごろ火をも焚かざれば一人物を書き夕ぐれにけり
小石川富坂上の木ぬれにはここだも通る夜の雲かも
小夜ふけて聞ゆるものは遠街(とほまち)の電車もやみて雨ふるけはい
〈メモ・感想〉
第二歌集(作者39歳時)。1876年(明治9年)12月16日 - 1926年(大正15年)3月27日。長野県出身。
【参考・引用文献】 『現代短歌全集』第三巻 筑摩書房(1980)