第七十四回 『傑作歌選第二輯 武山英子』武山英子
第七十四回 『傑作歌選第二輯 武山英子』武山英子(大正四年)
<選歌10首>(全197首より)
寵さめて凭(よ)るにさびしき朝の窓何の傲りぞ緋牡丹の花
幣(ぬさ)を手に雁を見おくる人わかし加茂のやしろの秋の夕ぐれ
湯あがりのかたちつくろふ夕かがみ対(つゐ)の浴衣(ゆかた)や桔梗白萩
見まつりし際(きは)の心をかげ遠き哀(かな)しみの日におぼえぬるかな
客間より父の語らふこゑ高くあたりしづけき秋のひるかな
はなれゆくものある如し夜の胸におちゐて風の音をききえず
新しき壁のにほえる夜の室にくだものの香の青くまじれる
つと家の者をはなれて海見ゆる黒木柱によればつめたし
たそがれになれば日毎にいづる風この音(おと)なりわれに涙をしふるは
人人のそしりの的(まと)にならむとて着飾れる夜のわがすがたかな
〈メモ・感想〉
明治14(1881)年1月2日~大正4(1915)年10月26日没(34歳)。金子薫園の実妹。何とも良い歌に出会えてよかったと思っていたら、金子薫園の妹と知り合点がついた。大事な歌人として心に秘めておきたい。
【参考・引用文献】 『現代短歌全集』第三巻 筑摩書房(1980)