Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

本日の一首 ー前川緑(六)

匂ひなき何の花かもからからと夏の終りの畑に吹かるる ものの終りはかくあるべしや八月の土用波立つ海のはろけさ 『卵の殻』 なにものに追ひ立てらるる身か知らず水を覗けば棲む生きものら ふきちぎられし小枝のごとくふるへつつこの世の路に女はありしか 『…

本日の一首 ー 大川智子

旧姓をペンネーム欄に記しゆく偽りのなきわたしの名前 大川智子『八雁』(2021年・5月号) p26 <メモ・感想> この歌を初めて拝読した時、「偽りのなき」の意味が分からず、しばらく、そのままにしてしまっていた。「旧姓」=「偽りない自分の名前」という…

本日の一首 ー前川緑

奈 良 昭和十二年七月日支事變始まる この庭はいと荒れにけり下り立ちて見ればしどろにしやがの花咲く 朝闇をつんざきて來る銃の音ただならぬ時を額あつく居ぬ 奈良に住み西の山見る愁ありその夕雲に包まれやする 淺茅原野を野の限り泣く蟲のあらたま響き夜…

本日の一首 ー 佐藤有一

きつねそば食べんとかかうるどんぶりに京都「七味家」七味の香る 佐藤有一『八雁』(2021年・5月号) p78 <メモ・感想> 単純明快、明朗快活な一首。そう思える歌が歌として成している時、実は、細やかなところに創意工夫が施されていることが多い。少なく…

【2021年5月1日の再開に関して(関口)】

ご高覧を頂いている方々へ 本日、5月1日より、『Karikomu』の関口の欄を再開致します。つきましては、私事で恐縮ではございますが、眼に負担がかかり過ぎない様、週二回のペースにて、今後は更新を重ねて参ります。原則、月曜日・木曜日に更新しますので、ど…

本日の一首 ー前川緑(五)

霜凍る朝に思へばあやふくは切子の花瓶もわが碎くべき 石屑のごとく踏みつつわが魂の火花となりてかがやく日もあれ 『花瓶』 前川緑『現代短歌文庫』砂子屋書房 (2009) p26-27 <メモ・感想> これもまた、一読でははっきりとしない箇所がある。一首目の逐…

本日の一首 ー前川緑(四)

一日の短かさをわが歎(たん)ずれば冬の薔薇生きて赤き花咲く この夜ごろ樹々にあらびて吹く風をいと身近しと省(かへりみ)するも 『乳母車』 より抜粋二首 前川緑『現代短歌文庫』砂子屋書房 (2009) p24 <メモ・感想> 一首目は、作りとして「~すれば…

本日の一首 ー前川緑(三)

わが生まむ女童はまばたきひとつせず薔薇見れば薔薇のその花の上に 月足らず生れ來しは見目淸くこの世のものとわれは思へず 生れ來て硝子の箱にかすかなる生命保ちぬながき五日を 『逝きし兒』 さにはべのつらつら椿つらつらに父の邊に來て病やしなふ 傷負ひ…

本日の一首 ー前川緑(ニ) おさらい編

昭和十二年七月日支事變始まる この庭はいと荒れにけり下り立ちて見ればしどろにしやがの花咲く 逐語訳:この庭は大変荒れてしまっているなあ、そこに下りて立って見ると、秩序なく乱れてシャガ(アヤメ科の多年草)の花が咲いている。 朝闇をつんざきて來る…

本日の一首 ー前川緑(ニ)

昭和十二年七月日支事變始まる この庭はいと荒れにけり下り立ちて見ればしどろにしやがの花咲く 朝闇をつんざきて來る銃の音ただならぬ時を額あつく居ぬ 奈良に住み西の山見る愁ありその夕雲に包まれやする 淺茅原野を野の限り泣く蟲のあらたま響き夜の原に…

本日の一首 ー 前川緑(一)  おさらい編

束ねたる春すみれ手に野の道を泣きつつ行けばバスすぎ行きぬ 逐語訳:束ねている春のすみれの花を手に持って野道を泣きながら歩いていると、バスが過ぎていった。 解釈:束ねたるすみれとあるので、摘むのに時間が経っていることが分かる。ずっと泣きながら…

本日の一首 ー訂正版 前川緑(一)

束ねたる春すみれ手に野の道を泣きつつ行けばバスすぎ行きぬ ゆふぐれの光を劃(くぎ)る窓のなかに草や木のあり靑き葉さやぎ 李の花に風吹きはじめ透きとほりたる身をぞゆだねる 野も空も暗い綠のかげらへる景色みるごと君を見はじむ 山の手の小公園ゆ望み…

選歌するということ

先日のオンライン歌会には、草林集から3人の方々がおいでくださった。私はいたく感じ入ったのだった。歌評の着眼点が、わたし(たち)と違う。言葉、文法、用例の確かな知識の上にご自身の考えや感じ方があって、言葉に忠実だ。知識を振りかざしたり、議論に…

本日の一首 ー 小田鮎子

玄関をひとたび出れば見しことのなき顔をして夫が歩く 襟立てて銀座の街へ消えてゆく夫追いかけて見たき日もある 途切れたる会話の間(あい)を縫うように公園脇を電車が走る 子を寝かせブラックコーヒー飲みながら取り戻したきことの幾つか 母でなくとも妻…

本日の一篇 ー 尾形亀之助

あるひは(つまづく石でもあれば私はそこでころびたい)自序 何らの自己の、地上の権利を持たぬ私は第一に全くの住所不定へ。 それからその次へ。 私がこゝに最近二ヶ年間の作品を随処に加筆し又二三は改題をしたりしてまとめたのは、作品として読んでもらう…

本日の歌 ー 追悼 岡井隆

岡井 隆(おかい たかし)1928年(昭和3年)1月5日 生- 2020年(令和2年)7月10日 没。 世間がこれだけ騒いでいるのだから、私も学ぶに及ばずとも、触れてみたいとかねてより思っていた。その時期が来るのを待っていた。そして、今朝、新聞紙上に阿木津英氏…

本日の一篇 ー ウルベント・サバ 須賀敦子訳

ミラノ 石と霧のあいだで、ぼくは 休日を愉しむ。大聖堂の 広場に憩う。星の かわりに 夜ごと、ことばに灯がともる。 人生ほど、 生きる疲れを癒してくれるものは、ない。 ウルベント・サバ 須賀敦子訳 須賀敦子『コルシア書店の仲間たち』 文藝春秋 (1995) …

本日の一篇 ー 太宰治

勉強というものは、いいものだ。代数や幾何の勉強が、学校を卒業してしまえば、もう何の役にも立たないものだと思っている人もあるようだが、大間違いだ。植物でも、動物でも、物理でも化学でも、時間のゆるす限り勉強して置かなければならん。日常の生活に…

本日の一首 ー 平井俊

ふれようと思えば届く距離にいる深夜のマクドナルドに座り 平井俊『角川短歌』角川文化振興財団(2018・11月号) p60 <メモ・感想> 第64回角川短歌賞の次席であった、『蝶の標本』より、一番良いと思った歌をあげた。なぜこの歌にしたかと言うと、歌を起点…

本日の一篇(ニ) ー 宇野千代

何を書くかは、あなたが決定します。しかし、間違っても、巧いことを書いてやろう、とか、人の度肝を抜くようなことを書いてやろう、とか、<略>決して、思ってはなりません。日本語で許された最小限の単純な言葉をもって、いま、机の前に坐っている瞬間に…

本日の一篇(一) ー 宇野千代

ものを書こうとするときには、誰でも机の前に坐る。書こうと思うときだけに坐るのではなく、書こうと思ってもいないときにでも坐る。<略>或るときは坐ったけれど、あとは忙しかったから、二、三日、間をおいてから坐るというのではなく、毎日坐るのです。…

本日の一首 ー 玉城徹

学ぶこと第一。第二は作ることぞ。人に知られむは末の末かも 玉城徹 『玉城徹全歌集』 いりの舎 (2017) <メモ・感想> 最近、更に、ぼやっと生活をしてしまっている。掲出歌は、私がちょうど眼を痛めて、焦りに焦っていた際に、阿木津英氏より知らされた…

本日の一首 ー 玉城徹

石をもて彫りたるごときはくれんの玉のつぼみの恋ほしきものを チュリップのま白き花を露一つすべりて落つと見し日はるけし 松原に遊歩の道のとほれるに人ふたりありてやぶ椿の花 三女性おじぎうやうやしくパフェ退治見れば若からず美しからず 玉城徹 『玉城…

第七十九回 『東京紅橙集』 吉井勇

第七十九回 『東京紅橙集』 吉井勇<選歌二首>(全三〇七首より) 臙脂(えんじ)の香(か)おしろいの香(か)もなつかしや金春湯(こんぱるゆ)より春(はる)の風(かぜ)ふく 栄竜(えいりう)がゆたかなる頬(ほ)に見入る(みいる)ときはじめて春(…

第七十八回 『翡翠』片山広子

第七十八回 『翡翠』片山広子<選歌三首>(全三〇〇首より) わが指に小さく光る青き石見つつも遠きわたつみを恋ふ あめつちのちひさきことのみが我が黒き眼にかろく映りぬ くれなゐのうばらの花に白う咲けとのたまはすなりせまきみここころ 〈メモ・感想〉…

本日の一首 ー 喜多昭夫

君はいつもわき目もふらず立ちあがるコーヒーカップの縁を拭ひて 喜多昭夫『哀歌ー岸上大作へ』八雁・第56号 (2021) <メモ・感想> 「八雁」第56号の中より抜粋するにあたり、一番分かり易く、一番思いやりの感じられる一首を目指して今号を読んだ。『哀歌…

本日の一首 ー 吉田佳菜『からすうりの花』

『はなぶさむら』より引用 (文責・関口) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 〈選歌十首〉 吉田佳菜 『からすうりの花』 国際メディア(2015) 久びさに訪ねくる人待ちわびて部屋ごとに置く水仙の花 花びらはわが頬に髪に乱れ立ちつくしたり…

八雁10首選(2021年1月号)

2021年1月号の八雁から十首選んで覚書。 婚前のあの日義母よりわたされし黒水牛の印鑑は岡 (岡由美子) 結婚前に、新姓の黒水牛の印鑑を義母からもらうということの意味するところ、言外のメッセージがひしひしと伝わってきた。 風わたる外階段のつづら折り…

本日の一首 ー 石田比呂志『冬湖』

鳥だって虫だってあの魚だって自分の居場所くらい知ってる 夜半覚めて時計の針を確かめてお臍の穴を覗きて眠る 今日もまた雀がしたり顔に鳴く短歌単純化、短歌単純化 短歌とはよんでくださるあなたへの灯ともしごろの愛の小包 飛ぶ鳥は必ず堕ちる浮く鳥は必…

梅を詠んだ歌

梅が咲き満ちている。昼は白や紅に樹全体がけぶり、鳥が鳴き集う。夜は濃く甘い香りが漂い、心惹かれる。詠いたいのに、どこから詠っていいかわからない。梅という題材は、どのように詠まれてきたのだろう。 我がやどの梅の下枝に遊びつつ鶯鳴くも散らまく惜…