Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

本日の一首

本日の一首ー正岡子規

明治十八年 壬午の夏三並うしの都にゆくを送りて 伝へきく蝦夷の深山の奥ならてさけんかたなしけふのあつさは 逐語訳:伝え聞いている北方の深い山奥にありて避ける方法はない今日の暑さは 忍恋 明くれにこひぬ日もなし玉の緒のたえねばたえぬ思ひなるらん …

本日の一首 ー 谷川電話

とりあえず便器に座ってぼくらしいうんちの仕方から考える 谷川電話 『短歌往来』ながらみ書房(2017)p46 この歌をいかに解釈するか。 解釈:とりあえずとあるのだから、何か、その前後に大事があり、その間に、トイレに行き、便器に座って自分らしい排便の…

本日の一首ー短歌史年表

短歌史年表と呼ぶには、まだ及ばないが、年表の作成を試みた。 下記のサイトより、大まかな時代の年表を打ち込んだ後、現代短歌全集に載っている、歌人の生まれた年と亡くなった年を書き込んだ。www.ndl.go.jp https://www.ndl.go.jp/modern/utility/chronol…

本日の一首ー 戦争について学ぶ

嫌いでは無いのに、どうしても覚えられないものに、地理と歴史がある。世界史が最も頭に入らない。けれども、短歌を追ってゆく時、どうしても戦争と近代史は外せないものとして感じるようになった。せめて、日本の戦争くらいはピンと来るようにせねばと、薄…

本日の一首 ー 『第113号 現代短歌新聞』(2021年8月5日発刊)を読んで

月岡道晴『視点ー研究と現代短歌の架橋』(p②)を読んで 以下、抜粋。 「戦後のある頃までは万葉集のみならず、和歌文学の研究は歌人が多くを担っていた」 「『私たちより二世代ぐらい前の研究者たちは、若い時は短歌を作るのが当たり前だった。・・・(中略…

本日の一首 ー 奥村晃作

ジョーンズの一枚の絵のどこ見ても現わし方がカンペキである 今回は、歌の鑑賞ではなく、奥村晃作氏の魅力を伝えたく記す。 奥村氏は「定型がベスト」という姿勢を崩さず、それでいながら、ガルマン歌会などにも足を運ばれたことがある様だ。 私が一度、お会…

本日の一首 ー 斎藤茂吉

満ちわたる夏のひかりとなりにけり木曽路の山に雲ぞひしめる 逐語訳:満ち渡った夏の光となっていたなあ、木曽路の山には雲が潜んで(隠れて)いて この一首は、全く「短歌」に関連の無さそうなーあるライブ・ハウスのインターネット上の広告欄にー載せられ…

本日の一首 ー 工藤貴響

西の雲払われたれば川の面にひかりを下ろす虹のなないろ 工藤貴響『八雁』(2021年・7月号) p52 逐語訳: 西にある雲がとりのぞかれると川の水面へ七色の虹がその光を下ろす 綺麗な自然の風景と、二句の詠い出しによる時の経過の導入に、上手さを感じた。こ…

本日の一首 ー 宮澤賢治

せともののひびわれのごとくほそえだは淋しく白きそらをわかちぬ 風来り、高鳴るものは、やまならし、あるひはボブラ、さとりのねがひ。 阿片光 さびしくこむるたそがれの むねにゆらげる 青き麻むら 宮澤賢治 宮澤賢治の詩や童話の文学的営為の源は、実は短…

本日の一首 ー 福永武彦

病院の待合室に待ち侘びてさまざまの音を聞き分けてをり 咳すれば暗き伽藍にとよもせる音は五体にひびかひやまず 福永武彦 ちょっとしたことで、この本を手にした。「福永武彦」。間違いなく、私の大好きな作家の名が目次にあった。『忘却の河』新潮社 (196…

本日の一首 ー 関口智子 

葉桜に別れを告げてこの風に乗っていこうと決めた花びら 関口智子 この歌は、私が高校時代に作った歌である。当時は、俵万智氏のお陰で、ちょっと詩を書く延長上に、この様な歌を日記に書いていた。 そして、時は経ち、「八雁短歌会」に入るも、横浜歌会出席…

本日の一首 ー 永田和宏

「六〇兆の細胞よりなる君たち」と呼びかけて午後の講義を始む 永田和宏『風位』 初めて、永田和宏氏の発言に目を留めたのは、2020年の角川短歌賞の選考座談会での発言であった。大賞候補は五作品であった。永田氏は、「テーマとか、新鮮さは大事だけれど、…

本日の一首 ー 阿木津英 真野少

躁の日は花を摘み来て道端にわが並べ売る「10円」と書き 真野少「明暗」 この歌を読んだ直後、「うわあ、すごい、分かる分かる」と、一人で有頂天になった。その後も、この歌は好きな歌であり、たまに思い出す歌となった。凄い発想力だと感服していた。それ…

本日の一首 ー 山崎方代

大正三年霜月の霜の降るあした生まれて父の死を早めたり 何か新しい良い歌は無いかと冊子を開くと、「11月の歌 田村広志選」の欄にこの歌があった。破調である。8・5・5・7・10、35字からこの歌は成る。私がもしこの歌を推敲するならば、おそらく、「霜…

本日の一首 ー 釋迢空 

人も馬も道ゆきつかれ死にゝけり旅寝かさなるほどのかそけさ 3年以上前だろうか、大川さん(八雁短歌会員)と一緒に勉強していた時期があった。その時に、大川さんが分からない歌として掲出歌を示し、二人で、頭を捻った記憶がある。今となっては、何に知恵…

本日の一首 ー 『現代短歌 第77号』ー「短歌にとって悪とは何か」を読んで

『現代短歌』(77号)を拝読した。題は「短歌にとって悪とは何か」である。この特集の冒頭に掲載されていた、吉田隼人氏の「欠損と沈黙」p26-31について記す。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 吉田隼人氏は、「沈黙ー二重の罪」、…

本日の一首 ー前川緑(八・完)『みどり抄』跋文

下記に、『みどり抄』の跋文の要点を記す。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 『みどり抄』は一人の歌人の十五年間の作品集としては、数が少ない。その理由は、彼女の歌をみればわかる。 『みどり抄』を彼女の心の中であたためら…

本日の一首 ー 『現代短歌 第85号』を読んで。

『現代短歌』(85号)を拝読した。特集は「岡井隆の〈詩〉を読む」であった。多分に私には難解な箇所があるが、私がずっと考えて来たことをこの場を借りて、記したいと思う。 岡井隆氏は韻律に精通ー超絶技巧(p68)、超絶技術者、する者であった。韻律を短…

本日の一首 ー前川緑(七)

和泉川見つつしをれどなぐさまず遠きこころを秋風の吹く 僅かなるよろこび湧けと吾がいはずをさなごの手を引きて走りぬ 『恭邇の京址』 唉き匂ふ八重の桜ざかり見のあかぬかもこころは空に 『櫻 春日萬葉植物園』 雨風のいよよ荒びてゆふぐれぬ嵐の中の樹木…

本日の一首 ー前川緑(六)

匂ひなき何の花かもからからと夏の終りの畑に吹かるる ものの終りはかくあるべしや八月の土用波立つ海のはろけさ 『卵の殻』 なにものに追ひ立てらるる身か知らず水を覗けば棲む生きものら ふきちぎられし小枝のごとくふるへつつこの世の路に女はありしか 『…

本日の一首 ー 大川智子

旧姓をペンネーム欄に記しゆく偽りのなきわたしの名前 大川智子『八雁』(2021年・5月号) p26 <メモ・感想> この歌を初めて拝読した時、「偽りのなき」の意味が分からず、しばらく、そのままにしてしまっていた。「旧姓」=「偽りない自分の名前」という…

本日の一首 ー前川緑

奈 良 昭和十二年七月日支事變始まる この庭はいと荒れにけり下り立ちて見ればしどろにしやがの花咲く 朝闇をつんざきて來る銃の音ただならぬ時を額あつく居ぬ 奈良に住み西の山見る愁ありその夕雲に包まれやする 淺茅原野を野の限り泣く蟲のあらたま響き夜…

本日の一首 ー 佐藤有一

きつねそば食べんとかかうるどんぶりに京都「七味家」七味の香る 佐藤有一『八雁』(2021年・5月号) p78 <メモ・感想> 単純明快、明朗快活な一首。そう思える歌が歌として成している時、実は、細やかなところに創意工夫が施されていることが多い。少なく…

本日の一首 ー前川緑(五)

霜凍る朝に思へばあやふくは切子の花瓶もわが碎くべき 石屑のごとく踏みつつわが魂の火花となりてかがやく日もあれ 『花瓶』 前川緑『現代短歌文庫』砂子屋書房 (2009) p26-27 <メモ・感想> これもまた、一読でははっきりとしない箇所がある。一首目の逐…

本日の一首 ー前川緑(四)

一日の短かさをわが歎(たん)ずれば冬の薔薇生きて赤き花咲く この夜ごろ樹々にあらびて吹く風をいと身近しと省(かへりみ)するも 『乳母車』 より抜粋二首 前川緑『現代短歌文庫』砂子屋書房 (2009) p24 <メモ・感想> 一首目は、作りとして「~すれば…

本日の一首 ー前川緑(三)

わが生まむ女童はまばたきひとつせず薔薇見れば薔薇のその花の上に 月足らず生れ來しは見目淸くこの世のものとわれは思へず 生れ來て硝子の箱にかすかなる生命保ちぬながき五日を 『逝きし兒』 さにはべのつらつら椿つらつらに父の邊に來て病やしなふ 傷負ひ…

本日の一首 ー前川緑(ニ) おさらい編

昭和十二年七月日支事變始まる この庭はいと荒れにけり下り立ちて見ればしどろにしやがの花咲く 逐語訳:この庭は大変荒れてしまっているなあ、そこに下りて立って見ると、秩序なく乱れてシャガ(アヤメ科の多年草)の花が咲いている。 朝闇をつんざきて來る…

本日の一首 ー前川緑(ニ)

昭和十二年七月日支事變始まる この庭はいと荒れにけり下り立ちて見ればしどろにしやがの花咲く 朝闇をつんざきて來る銃の音ただならぬ時を額あつく居ぬ 奈良に住み西の山見る愁ありその夕雲に包まれやする 淺茅原野を野の限り泣く蟲のあらたま響き夜の原に…

本日の一首 ー 前川緑(一)  おさらい編

束ねたる春すみれ手に野の道を泣きつつ行けばバスすぎ行きぬ 逐語訳:束ねている春のすみれの花を手に持って野道を泣きながら歩いていると、バスが過ぎていった。 解釈:束ねたるすみれとあるので、摘むのに時間が経っていることが分かる。ずっと泣きながら…

本日の一首 ー訂正版 前川緑(一)

束ねたる春すみれ手に野の道を泣きつつ行けばバスすぎ行きぬ ゆふぐれの光を劃(くぎ)る窓のなかに草や木のあり靑き葉さやぎ 李の花に風吹きはじめ透きとほりたる身をぞゆだねる 野も空も暗い綠のかげらへる景色みるごと君を見はじむ 山の手の小公園ゆ望み…