Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

現代短歌全集を読む 第一巻

第十六回 若山牧水 『海の声』

若山牧水(わかやまぼくすい) 『海の声』(明治41年刊行)より選歌(全475首) 〈選歌11首〉 われ歌をうたへりけふも故わかぬかなしみどもにうち迫はれつつ 闇の夜の浪うちぎはの明るさにうづくまりゐて蒼海あほうみを見る 海明うみあかり天そらにえ行かず…

第十五回 平野万里 『わかき日』

平野万里(ひらのばんり) 『わかき日』(明治40年刊行)より選歌(全414首) 〈選歌11首〉眼めとづれば心を占しめしいつはりの落ちし、かなしき獄ひとやの見ゆる。ゆめの海、水泡みなわや凝れる、うるはしき少女をとめぞしのぶ、花藻のかげに。おなじくは焼…

第十四回 草山隠者 『池塘集』

草山隠者(青山霞村・あおやまかそん)『池塘集(ちとうしゅう)』(明治39年刊行)より選歌(全327首)*この歌集は、私家版・非売品として発行された。 〈選歌13首〉 はるあそび野宮山寺靄のうち花を訪ふ人草を踏む人 三千の花の宮女に歌はれた才もないの…

第十三回 落合直文 『萩之家歌集』

落合直文(おちあいなおぶみ)『萩之家歌集』(明治39年刊行)より選歌(全1061首)*第一歌集(遺歌集)であり、直文の没後、落合直幸にて編纂された。 〈選歌17首〉 いにしえを志のぶなみだの袖の上にいやふりまさる秋のむら雨 千年まできこえけるかな桜田…

第十二回 相馬御風 『睡蓮』

相馬御風 『睡蓮』(明治38年刊行)より選歌(全348首) 〈選歌18首〉 心なく口くちにあてたる花びらに命いのちおぼゆる春のくれかた 天あめさしてなげつる花種たねの根はもたずかへりてはまたさびし野の末 君が家やへただ一すじのみちなれど心うかりきかの…

第十一回 窪田通治 『まひる野』

窪田通治『まひる野』(明治38年刊行)より選歌(全293首) 〈選歌14首〉 かひなくも流せる涙かがやきて今日けふよろこびの眼に甦る 砂白き磯につくばひ秋の日を大海原に手を浸ひたし見る 花野めぐり走せ行く水や手ひたして冷きにしも驚くものか 朝にしてた…

第十回 山川登美子・増田まさ子・與謝野晶子 『恋衣』

山川登美子 増田まさ子 與謝野晶子共著『恋衣』(明治38年刊行)より選歌 〈選歌〉 「白百合」山川登美子 詩人薄田泣菫(すすきだきゅうきん)の君に捧げまつる 手もふれぬ琴柱ことぢたふれてうらめしき音たてわたる秋の夕かぜ 何といふところか知らず思ひ入…

第九回 正岡子規 『竹の里歌』

正岡子規 『竹の里歌』より十首 (明治30年~明治35年)〈選歌十首〉 籠にもりて柿おくりきぬ古里の高尾の楓色づきにけん 試みに君の御歌を吟ずれば堪へずや鬼の泣く声聞こゆ 昔見し面影もあらず衰へて鏡の人のほろほろと泣く 仰むけに竹の簀の子に打臥して…

第八回 尾上柴舟 『銀鈴』

尾上柴舟 『銀鈴』(ぎんれい)より十首 〈選歌十首〉 今の世は来む世の影か影ならば歌はその日の豫言ならまし 夜ごと逢はむ夢のところや此処ならし君と手分つ菩提樹のかげ 江の水にもし平和やはらぎのかげあらばそこにとまらむ流れ藻の花 岩かげに吹きつけ…

第七回 佐々木信綱 『思草』

佐々木信綱 『思草』(おもひ草・おもひ艸)より十首 〈選歌十首〉 風にゆらぐ凌霄のうせん花かつらゆらゆらと花ちる門に庭鳥あそぶ 変り行く昨日の我われ身今日のわれいづれまことの我われにかあるらむ 竹やぶのいづこも同じ垣根道いづれなりけむ伯母君の家…

第五回 鳳晶子 『みだれ髪』

鳳晶子 『みだれ髪』よりニ十首 〈選歌十首〉 夜の帳(ちょう)にささめき尽きし星の今を下界(げかい)の人の鬢のほつれよ 歌にきけな誰れ野の花に紅き否(いな)むおもむきあるかな春罪(はるつみ)もつ子 紺青(こんじゃう)を絹にわが泣く春の暮やまぶき…

第四回 服部躬治 『迦具土』

服部躬治 歌集『迦具土』(かぐづち)より十首 〈選歌十首〉 君見ませ折る人無みに歳を経し野茨の花のここちよげなる 貴人(アデビト)は誰よりうけし勢力(イキホイ)ぞわれに詩(ウタ)あり神の授けし 手すさびにをりたる紙の鶴すらも飛ばむとすなり春の初…

第三回 与謝野鉄幹 『紫』

与謝野鉄幹 歌集『紫』明治34年(1901年)より十首 〈選歌十首〉 雲を見ず生駒葛城(いこまかつらぎ)ただ青きこの日になにとか人を咀(のろ)はむ 野のゆふべ花つむわれに歌強ひてただ『紫』と御(み)名つげましぬ 五つとせむつまじかりし友のわかれ城のひ…

第二回 金子薫園 『かたわれの月』

金子薫園 歌集『かたわれの月』より十首 〈選歌十首〉 桃のはな君に似るとはいひかねてただうつくしと愛でるやみしか なにものか胸に入りけむ年ごろの懊悩(なやみ)わするるふゆの夜の月 同じ世に生れあひたる嬉しさは我も御弟子(みでし)のつらに入りぬる…

第一回 与謝野鉄幹 『東西南北』 

第一回 与謝野鉄幹 『東西南北』 明治29年 おなじ道、おなじ真ごころ。二人して、いざ太刀とらむ、いざ筆とらむ。 槐園と賦す。 〈直訳〉同じ道に同じ本当の心で、二人で、さあ刀をとろう、筆をとろう。 詞書の、「槐園」とは、鮎貝槐園のことだろうか。「賦…