Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

第五回 鳳晶子 『みだれ髪』

鳳晶子 『みだれ髪』よりニ十首

〈選歌十首〉

夜の帳(ちょう)にささめき尽きし星の今を下界(げかい)の人の鬢のほつれよ

歌にきけな誰れ野の花に紅き否(いな)むおもむきあるかな春罪(はるつみ)もつ子

紺青(こんじゃう)を絹にわが泣く春の暮やまぶきがさね友(とも)歌ねびぬ

春の国恋の御国のあさぼらけしるきは髪か梅花(ばいくわ)のあぶら

許したまへあらずばこその今のわが身うすむらさきの酒のうつくし

水に飢ゑて森をさまよふ小羊のそのまなざしに似たらずや君

悔いますなおさへし袖に折れし劔(つるぎ)つひの理想(おもひ)の花に刺(とげ)あらじ

わかき小指(をゆび)胡粉(ごふん)をとくにまどひあり夕ぐれ寒き木蓮の花

みだれ髪を京の島田にかへし朝ふしてゐませの君ゆりおこす

しのび足に君を追ひゆく薄月夜(うすづきよ)右のたもとの文がらおもき

なにとなく君に待たるるここちして出でし花野の夕月夜かな

ゆあがりのみじまひなりて姿見に笑みし昨日(きのふ)の無きにしもあらず

母なるが枕経(まくらぎょう)よむかたはらのちひさき足をうつくしと見き

牛の子を木かげ立たせ絵にうつす君がゆかたに柿の花ちる

その子ここに夕片笑(ゆふかたゑ)みの二十(はたち)びと虹のはしらを説くに隠れぬ

病みてこもる山の御堂に春くれぬ今日(けふ)文ながき絵筆とる君

人に侍る大堰(おほゐ)の水のおばしまにわかきうれひの袂の長き

そのなさけ今日舞姫(まひひめ)に强(し)ひますか西の秀才(すさい)が眉よやつれし

歌筆を紅(べに)にかりたる尖凍(さきい)てぬ西のみやこの春さむき朝

天(あま)の才(さい)ここににほひの美しき春をゆふべに集(しう)ゆるさずや

 

〈感想〉
  鳳(ほう)晶子 1878年明治11年)~ 1942年(昭和17年)。
  1900年(明治33年)、与謝野鉄幹(1873~1935)と不倫。晶子22歳、鉄幹27歳。
  1901年(明治34年)『みだれ髪』出版。
  1901年(明治34年)『みだれ髪』発刊直後、鉄幹と結婚。

  歌集に出てくる言葉
  ・紫(臙脂色)・・・・・血を意味している?
  ・羊
  ・神
  ・髪
  ・ゆあみ(湯浴み)
  ・恋
  ・絃(ゲン)
  ・十字架
  ・聖歌(せいか)
  ・春
  ・ダビデ
  ・めしい(盲)
  ・海棠(カイドウ)・・・・・バラ科の低木
  ・片笑み
  ・魔

 

 解釈が出来かねないが、歌に意気込みを感じた。一つ学んだことは、繊細な歌ではないが、細やかな観察眼や発見に機微があること。誰に言われるとも無く、実家の店先で、独りで作歌していた文学少女だった時代を思うと、歌の為所を感覚的に見立てることが、確立していたのではないかと思った。
 相容れない歌を含めて、全体的に、歌が成熟している印象を受けた。その他、読者を意識して作歌していたのかが、気になった点である。