第八回 尾上柴舟 『銀鈴』
尾上柴舟 『銀鈴』(ぎんれい)より十首
〈選歌十首〉
今の世は来む世の影か影ならば歌はその日の豫言ならまし
夜ごと逢はむ夢のところや此処ならし君と手分つ菩提樹のかげ
江の水にもし平和やはらぎのかげあらばそこにとまらむ流れ藻の花
岩かげに吹きつけられて山風の過ぐる待つ間はわれ我にあらず
あやまりて影を趁ひつつ走りけり頭かしらふみても立つべかりしを
おん胸にふたたび湧かむ歌やあると寒き夜すがら御柩守る
ほのぐらき大講堂の石だたみふめばたふとしわが跫音あしおとも
神の世の夕日を浴びて菜の花のかをりの中に立つはただわれ
声低くうたふむかしのわが歌に心のいたみ生きかへるかな
ゆふべの雲
ゆふべの雲を説きますな
夜半の嵐を説きますな
ただただ君よ出でて聞け
さとしは朝の濤にあり
〈感想〉
尾上 柴舟(おのえさいしゅう・しばふね) 1876年(明治9年)~1957年(昭和32年)
岡山県出身
一高時代(高校時代)に落合直文に師事
1902年 『叙景詩』を金子薫園と刊行・・・『明星』の浪漫主義に対抗して「叙景詩運
動」を推し進めた。
1905年 『銀鈴』新潮社・・・柴舟29歳
歌誌『水甕』主宰
解釈並びに感想は、「わけ(が)わからないけ(れ)ど、す(っ)ごく、かっこいい」。体感させられる歌に、読むのに体力が必要であった。
幾歌にも付箋を貼ったが、再読すると、意外にもすっと九首に選歌できた。詩も作って居られ、まだまだ、魅力を秘めている歌人である。
金子薫園と交流があることや、浪漫派への対抗などを知り、自分(筆者)の好みが浮き彫りとなり、道がみえてきた。
玄人に好まれる歌の気がするが、素人の筆者でも、飛び付きたくなるくらいに、かっこ良い。
相当な努力をなさったとは思うのだが、努力の汗や血が歌の面に滲み出ていない。かっこ良いではないか。