第十一回 窪田通治 『まひる野』
窪田通治『まひる野』(明治38年刊行)より選歌(全293首)
〈選歌14首〉
かひなくも流せる涙かがやきて今日けふよろこびの眼に甦る
砂白き磯につくばひ秋の日を大海原に手を浸ひたし見る
花野めぐり走せ行く水や手ひたして冷きにしも驚くものか
朝にしてたのめし夜よるに似もやらず雁は啼けども月は照れども
白露や萩のかをりをふくませて揺らぎつつゐる鳥来て飲めと
葉にこぼれ花にこぼれてわが髪に香をば染しますや露の日向葵ひまわり
秋風に飜り飛ぶ紅葉や疾くとおもふが疾くも飛びぬる
夕庭や栗の実落つる音ききて閉さしたる門かどをまたも開けたり
二月ぐわつの日天そらに夢みて夢の数かず落とししと見る白梅の花
梅の渓ここに生れてこの花を噛みて育ちし鳥もやあると
春の夜よる老いにし女ひとの化粧して花にあゆむをあはれと眺めし
慣れてわれ秋の寂さびにもおごりしをなぞや涙の春にこぼるる
眼め閉とざせど浮かみもかぬる面影や君は春吹く微風そよかぜのごと
戯れに人と別れつ邂逅めぐりあひてほほ笑みて見る春の夜の月
〈感想〉
窪田空穂(くぼたうつぼ) 明治10年~昭和42年
本名:通治(つうじ)/ 初期は、小松原はる子(女性名)を用いていた。
長野県出身
與謝野鉄幹に認められ、「明星」の初期に詩や歌を発表し注目を浴びた。
読み始めて、嫌な予感がした。浪漫派。苦手である。何とか目星をつけて選歌した。それらをタイプしてみると、意外なことに、それほどの拒否感が無くなり、それ以上に、好き嫌いではない、詠み手の目線が伝わってきた。嬉しかった。目指す方向が違っていても、その歌が何を詠っているのか理解出来るようになりたい。その第一歩が踏み出せた気がする。もしかして、浪漫派が苦手なのは、自分にない歌への自由さがあるからかも知れない。