第十六回 若山牧水 『海の声』
若山牧水(わかやまぼくすい) 『海の声』(明治41年刊行)より選歌(全475首)
〈選歌11首〉
われ歌をうたへりけふも故わかぬかなしみどもにうち迫はれつつ
闇の夜の浪うちぎはの明るさにうづくまりゐて蒼海あほうみを見る
海明うみあかり天そらにえ行かず陸くがに来ず闇のそこひに青うふるえり
うす雲はしづかに流れ日のひかり鈍める白昼ひるの海の白さよ
手をとりてわれらは立てり春の日のみどりの海の無限の岸に
うつろなる秋のあめつち白日のうつろの光ひたあふれつつ
黒かみはややみどりにも見ゆるかな灯にそがひ泣く秋の夜のひと
君泣くか相むかひゐて言もなき春の灯かげのもの静けさに
旅人は伏目にすぐる町はづれ白壁ぞひに咲く芙蓉かな
春の夜の月のあはきに厨くりやの戸誰が開けすてし灯のながれたる
仁和寺の松の木この間まをふと思ふうらみつかれし春の夕ぐれ
〈感想〉
若山牧水(明治18年~昭和3年)
宮崎県出身
明治37年 尾上柴舟を訪ねて師事し、その後、柴舟を中心に、前田夕暮らと車前草社を結成。
明治43年頃 歌誌「創刊」の編集を担当。〈牧水・夕暮〉と並称された。