第四十三回『一握の砂』石川啄木
『一握の砂』石川啄木(明治43年)
<選歌七首>(全551首より)
大といふ字を百あまり
砂に書き
死ぬことやめて帰り来たれり
飄然と家を出でては
飄然と帰りし癖よ
友はわらへど
わが泣くを少女等(をとめら)きかば
病犬(やまいぬ)の
月に吠ゆるに似たりといふらむ
何がなしに
息きれるまで駆け出してみたくなりたり
草原(くさはら)などを
尋常のおどけならむや
ナイフ持ち死ぬまねをする
その顔その顔
打明けて語りて
何か損をせしごとく思ひて
友とわかれぬ
はたらけど
はたらけど猶わが生活(くらし)楽にならざり
ぢつと手を見る
『一握の砂』について
第一歌集。作者24歳時。岩手県出身。後に土岐哀果と生活派の源流を成す。明治44年に病床につき、45年に歿(26歳)。三行遣いはひとつのアイディアではあるが、一首一行の形式で作歌する際に、漢字が続くことによって助詞や送り仮名を入れるなどの知恵と工夫が必要となる場合があり、そうした知恵と工夫からは離れた場所で歌を作っているように思われた。雑駁な感想として、尾崎豊の世界観に似ていると感じざるを得ない。
【参考・引用文献】 『現代短歌全集』第二巻 筑摩書房(1980)