第四十八回 『かろきねたみ』岡本かの子
『かろきねたみ』岡本かの子(大正元年)
<選歌8首>(全70首より)
力など望まで弱く美しく生まれしまゝの男にてあれ
血の色の爪に浮くまで押へたる我が三味線の意地強き音
朝寒の机のまへに開きたる新聞紙の香高き朝かな
三度ほど酒をふくみてあたゝかくほどよくうるむさかづきの肌
むづがゆく薄らつめたくやゝ痛きあてこすりをば聞く快さ
美しくたのまれがたくゆれやすき君をみつめてあるおもしろさ
なめらかにおしろい延(の)びてあまりにもとりすましたる顔のさびしさ
なまめかし胸(むな)おしろいを濃く見せて子に乳をやる若き人妻
あけがたの薄き光を宿したる大鏡こそ淋しかりけり
『かろきねたみ』について
第1歌集。作者23歳時。東京出身。昭和14年に歿(49歳)。作者が女性だからか分かり易い歌が多いと感じた。女性ゆえに詠える歌というのもあるのかも知れない。「なめらかにおしろい延(の)びてあまりにもとりすましたる顔のさびしさ」、「なまめかし胸(むな)おしろいを濃く見せて子に乳をやる若き人妻」などは、女性が詠うから共感を得るのではないだろうか。この時代の女性性を学ぶ必要があると考えた。
【参考・引用文献】 『現代短歌全集』第二巻 筑摩書房(1980)