第五十六回 『潮鳴』石榑千亦
第五十六回 『潮鳴』石榑千亦(大正四年)
<選歌8首>(全377首より)
天も地もしめりもちたる曇り日に
白樺の木の目にきらきらし
旅にして剪りたる爪の
黒くなりて又剪りぬべく
日数経にけり
日は暮れぬ
山も 野も 海も見えずなりて
帰るべき家のただ目に浮かぶ
ささとふる雨の音かな
はつはつに葉をはなれたる黍の穂の上に
今もかも
火を噴きぬべき頂に立てりと知れど
すべの知らなく
〈メモ・感想〉
石榑千亦。明治2年、愛媛県出生。明治22年上京し、落合直文や正岡子規に学ぶが、26年佐佐木信綱の竹柏会に入会。大正4年に第一歌集『潮鳴』を刊行(自身46歳)。序文を佐佐木信綱が書いており、べた褒めしている。
感想として、上手いのになぜか読んでいるうちに疲れる、なぜ疲れるのだろうか、ふと、素直さが足りないからだと考え至る。しかし、それは作者へだけでなく、読者の私の心にも問いかけていくことだと思った。
【参考・引用文献】 『現代短歌全集』第三巻 筑摩書房(1980)