Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

本日の一首

 君は今何をしてゐむ働きてわれはうつむきて歌を作れり 

    稲葉京子 『紅を汲む』短歌新聞社(1999)p59

 

 上手い歌はごまんとある。この歌はどうであろう。直情的な一首。これこそが稲葉京子氏のひた向きさを表しているのではなかろうか。私は御著作を拝読する度に、涙が出そうになる。こうまでもか細い神経を持ちながら、細い微光の一条の如く、一首一首が紡がれる。著者の他の本も手に取ったが、私が感銘を受けるのは、いずれのあとがきに、必ずといっていい程、「私は『五七五七七』の詩形を愛する」との旨が書かれている。元は童話作家であった氏が、短歌の詩形を愛し、信じるまでには、様々な考えが巡ったであろう。豊かな想像力を五七五七七の詩形におさめる苦悩を超え、短歌を信じ愛するまでに成った、その過程を思う時、この上なく美しい氏の内面を思わざるを得ない。