本日の一首
身をのべてまた身を折りて思ふなり棺よりややベッドは広し
昨日の選歌の前隣りにある一首。この歌は、難いほど上手い歌ではなかろうか。上手いというのは表面的な言葉の運びだけでなく、もっと強い発想力にある。誰もが思いもしない感触を、表現し尽くしたい。心の底から、自分でない他者にこの瞬間を伝えたい、伝わる様に歌にして、託したい。その謙虚さが、やはり美しい。どんなにか繊細な人物であったのだろうか。高みへ高みへと向かう、上手くなりたいと思う。そしてある時から、「私ならこんな詠い方が出来る」と上から上手さで圧すような作歌姿勢となっていく人を、私ですら見知っている。自分以外の誰かに伝わってほしい、その一心に、表現せざるを得ない、稲葉京子氏の、孤独の深さ、生きにくさがあることを、私は信じ、敬愛している。