本日の一首
春庭(はるには)は白や黄の花のまつさかりわが家(いへ)はもはやうしろに見えぬ
青い野にトンネルをうがつ阿呆等よわれはあちこちの雲をとらへる
夜なかごろ窓をあければ眼(ま)なかひの星のおしやべりに取りかこまれぬ
石川信雄『cinema』 ながらみ書房(2013) 復刻版
初版、昭和11年上梓(作者年齢・28歳)
「序」を前川佐美雄が書いている。復刻版の帯には佐々木幸綱氏が「『植物祭』と並び称せられた幻の歌集『シネマ』……」と綴られている。「幻の歌集」などとあると手に取らずにはいられない。しかも、前川佐美雄と並び……とあり、益々、期待が募った。しかし、読後に「?」と頭を傾げた。2020年現在の口語短歌の様な「ふわふわ」感。けれども、一つ学びがあるとしたら、石川信雄氏は、少なくとも「五七五七七」の定型からどこまでの破調をするか、自己確認していたのではないだろうか。時代的にも、今現在よりも、破調するには、「勇気」が必要だったであろう。そういう「痛み」ある作歌姿勢に、好感が持てた。