Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

本日の詩-斉藤政夫 ニ篇

【生きてゆくのが苦しい(2)】作・斉藤政夫

 遺伝的なもの

日下新介の詩はいいな
平坦で
ぎこちないけど
飾りがなくて
苦難の生い立ち
哀しみのかたわれに喜びがあったこと
まっすぐに 歌ってる

私にも 苦難の思いで
……ちょっとだけ 
ありました
父への憎しみと
母へのあわれみが

父は身勝手に生きた
母は不幸を必死に生きた
私はゆがんで生きている

こんな気持ちは墓場に持っていこう
こんな遺伝子はすっかり焼きつくしてほしい

だが、気がかりなのは
子どもたちに私の遺伝子を残したことだ

 

 あなたの声

ふと目を上げると
きのう見た雲と違うから
言葉をさがすけど 
 ホイッスラーの「肌色と緑の夕暮れ」のようには
雲を表す言葉が足りない

無音の空に雲が動く
 左から右へ 微かに
手前の雲はちぢれて 幾分速く
逃げていく
雲が消えた後には灰色の空が
その向こうに  闇の奥

窓の端に朱色が射し始めるころ
公園から子供らの歓声が
 精一杯遊んでも、まだ物足りなくて
波が引くように消えていく

白と黒のまだらのあわいから
微かな声がこぼれてくれば
あなたの声だと分かります

もうすぐ安息の時が
時のやさしが
――どうか、傲慢な私を許してください
頭(こうべ)を垂れ、今すぐ
あなたのもとへ