Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

本日の一首 ー 吉田隼人

 

竜胆の花のやいばを手折るとき喪失の音(ね)を聴かむ五指かな

 吉田隼人『角川短歌』株式会社KADOKAWA(2015・4月号)p64 

 

逐語訳:リンドウの花の刃を手で折る時、刃が失われるその音を聴いているのだろうか五本の指

 竜胆の花は、晴れた日にしか咲かないそうである。また、茎や葉に棘があり、薬草にもなるそうである。名前の由来も、根が、「熊の胆(い)」よりも苦いことから「竜の胆(最上級に苦い)」の意味で、この名前になったとされ、何となく、暗い意味を含んだイメージが浮かぶ。どこまで作者がこの素材に含意を託したのかは分からないが、何らかのメッセージ性を発していると、私は捉えた。棘を手で折り棘の生を殺める時、その命が失われていく、棘の折れる音、を聴いているのだろうかこの(棘を折った)五本の指は。       

 私の解釈では、この作者自身の身体の耳にはその音が聴こえない。棘は小さすぎて、身体の耳には折れる瞬間の音は聴こえない、だが、この棘を折った感覚のある指、この指には聴こえているだろう、小さな棘が死した時の音を。自分が生命を殺めた瞬間の音を。とした。

 またしても、口語短歌へほんの少し不慣れの不が取り除かれていく思いをし、有り難い限りである。