Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

本日の一首 ー 岡井隆

ヨハン・セバスチャン・バッハの小川暮れゆきて水の響きの高まるところだ 

にがにがしい結末であるがしかれどもそれに傘などかりてはならぬ

宴(うたげ)には加はるがいいしかしその結末からは遠退(とほの)いてゐよ 

 岡井隆  『現代詩手帖』(2020)思潮社 p25

いつか読まねば、いつか読みたい、いつか挑みたい。そう思い続けていたが、逝去された今、この三首に出会った。いずれも、歌集『暮れてゆくバッハ 』に収められている。「前衛と言えば、岡井隆氏」と常々、聞きかじっている程度の自分であった。では、なぜそれらの歌が一目おかれる様になったのか。それは、掲出歌から読み取れる「ある確かな真実味」ではないだろうか。もう少し言えば、「教訓」があることその教訓がなぜか説教めいていない。そこに上手さがあると感じた。言葉の散りばめ方、一首一首を美しく見えるように作歌なさっている。申し訳ないが、現状、私自身が思い至るのはここまでである。ただ一つ、これは、「本物の短歌」であると私は思っている。