Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

本日の一首 ー 田宮智美

階段をゆっくりあがってゆく恋だ来週たぶん鎖骨にさわる

助手席のシートを直す 足の長い誰かの座った季節を直す

喧嘩したこともないのに仲直りしたいと思う線香花火

可愛いとわたしに言ったことなどもなかったように結婚する人

「たすけて」を「大丈夫!」に変え笑いたり災害強者だったあの日々

 田宮智美  『にず』(2020)現代短歌社 

 一首目、三首目の、感性の豊かさに魅了される。二首目、四首目は、その観察眼、観察する視点が卓越だと感じる。五首目はこの歌集の評や栞に述べられている、震災の罅を詠った歌。初めて、見も知らない同世代の歌人に憧れ、憧れでは済まない何か、嫉妬だろうか、嫉妬だけでもない、何か。そう、私はこの人を「信頼」したのだ。略歴を見た。著者は私より三歳年下のようである。そして、短歌の結社に入った年も同じである。私は、一体、何をしていたのだろう。著者が被災者と括り付けられ、短歌を始め、苦々しい思いを、豊かな歌にして来た、その間、私は全くといっていい程、何もしてこなかった。現実から目を逸らしていた。今、私は私の頭を鈍器で殴られた様に感じているが、否、自分で自分の頬を平手で引っ叩きたい気持ちが先である。