本日の一首 ー 小野葉桜
森(しん)として寝静まりたる下町の家並をかぞへ行きかへるかな
久しぶりの雨の音聴き秋の朝の疲れ心をぢっと伏し居り
夕曇るおほわたつみの静けさよゆるき傾斜地(なぞへ)に蕎麦の花咲き
小野葉桜 『悲しき矛盾 小野葉桜遺稿歌集』(1987)ふるさと双書
若山牧水と同郷、宮崎県の歌人である。氏は「薄幸の歌人」として周知されているが、又、若山牧水と同じくらい、宮崎県出身の歌人として県内では、名が知れ、大事にされてきた歌人である。とある先達に「若山牧水が好きではない」と口にしたところ、「私も、若山牧水より小野葉桜をよく読む」と仰せつかり、この歌集を知った。掲出歌の三首目を拝読し、久しぶりに新鮮さを味わった。一首目、二首目は、少し寂しげな心持ちを大事にして詠われたと感じる。三首目は、「地味」でありながら、景をしっかり捉えた一首。言葉の選びを積み重ね経て、詠えるようになった歌のように思えた。こんなに地味でもエッジが立っている。ほんの少し悲しい時に、寄りかかりたくなる歌集である。