第七十五回 『片々』山田邦子
第七十五回 『片々』山田邦子(大正四年)
<選歌三首>(全三〇一首より)
自らの心かき裂き引きむしり狂へりし間に児は這ひそめぬ
我つひに母となりけり海に来てつくづく肌の衰へを知る
家をおき児を見に来たる淋しき女をとがめ給ふな
〈メモ・感想〉
『片々』、「へんぺん」と読むそうである。本名は「くにえ」。明治23年(1890)に徳島県に生まれる。文学を志し、高等学校卒業後に上京。姉・岩波花子も歌人である。掲出歌は、むき出しの感情が詠われている。子を置いて独りになりたい気持ち。子育てや家事で荒れた自分の手。求められながらも躊躇している間に育ってゆく我が子。母親というものの深さ、母親というものに在る普遍性。昔も今も、変わらない。この寂寥感や悲哀や疲弊に首を垂れると共に、それらがこの先も変わらないことを思い、変わってはならないことだとも感じた。
【参考・引用文献】 『現代短歌全集』第三巻 筑摩書房(1980)