Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

本日の一首 ー 島田幸典『no news』

 

婚控えやさしき女友だちは襟の糸屑さらりと摘めり

 島田幸典『no news』(2002)砂子屋書房 

<メモ・感想>

良い歌を、自分が良いと思える歌を、この場でお伝えしたくここまで来た。しかし、寂しかったことがある。それは、短歌を始めてから、短歌以外の、主として、大好きだった小説が読めなくなってしまったことだ。小説など読む暇があれば、短歌に関連した書物を読むべきではないか。元来は、ただの本好きである。それが、事もあろうか、文学の真髄を求める場に入った途端、読書に不自由を感じるようになった、本当の本末転倒である。そして、それは年々、色濃くなってしまった。最近、その自由を何とか手元に戻そうと志向している。そんな今日、そう言えば!と思ったのが、この掲出歌である。短歌を始めてから、石田比呂志氏の本の中に、島田幸典氏の名を見つけた。それによれば、(著者は)「『古泉千樫が好きだ』と言った」とある。私は、そこで、島田幸典氏の本ではなく、古泉千樫の本を買い求めた。阿保である。無論、さっぱり読めなかった。けれども、いつか、古泉千樫の歌の良さを分かるようになりたい、とも思った。その様な色眼鏡で手にした『no news』の中で、ああこの歌が好きだなあ、と心から思った。思いながら、いつかその事を伝えようと、2年が過ぎた。そして、ある事でお会いした際に、それをお伝えすると、「いやあ、僕もまだ若かったんで色々と……」とお返事をくださった。あの頃は、いつか「古泉千樫」を分かりたいと本気で思っていた。そして、本気で掲出歌が好きだった。私は、満たされていたのだ。月日だけは過ぎた。もっともっと自由に。阿木津英氏の言葉が、心にこだまする。自分で自分に課した足枷。この輪っかを鋸をもってしても外さねばなるまい。