第七十八回 『翡翠』片山広子
わが指に小さく光る青き石見つつも遠きわたつみを恋ふ
あめつちのちひさきことのみが我が黒き眼にかろく映りぬ
くれなゐのうばらの花に白う咲けとのたまはすなりせまきみここころ
〈メモ・感想〉
序文を佐佐木信綱が記している。「巧みを捨てた歌集でありたい」というのが片山広子自身の思いだったそうである。しかし、本歌集は意図してその巧みな歌を捨てずに掲載したという経緯があったそうだ。恥を忘れない為であったらしい。一首目は指輪の青い小さい石から過去を思い出す、景をクレッシェンドのように大きくしていく点、二首目は「我が黒き眼」の「黒き」をいれることで、「あめつち」と対を成している点、三首目は「うばら」、「のたまはす」、又、ひらがな表記など、語の使い方に学ぶところがあった。だがしかし、何か大切なことを曝け出していない感触が残る。もう一息、歌から作者の生身の感情がはみ出ていれば、とも思われる。いかがであろうか。
【参考・引用文献】『現代短歌全集』第三巻 筑摩書房(1980)