Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

本日の一首 ー訂正版 前川緑(一)

束ねたる春すみれ手に野の道を泣きつつ行けばバスすぎ行きぬ

ゆふぐれの光を劃(くぎ)る窓のなかに草や木のあり靑き葉さやぎ

李の花に風吹きはじめ透きとほりたる身をぞゆだねる

野も空も暗い綠のかげらへる景色みるごと君を見はじむ

山の手の小公園ゆ望み見る秋の日の海の靑きかがやき

百年もかかる落葉を踏めるごとうららにさせば冬日かなしき 

  前川緑『現代短歌文庫砂子屋書房 (2009) p20「鳥のゆく空」昭和11年-昭和22年

*引用した五首目、「海の(靑き)」が抜けておりました。ここに、訂正し、お詫び申し上げます。

<メモ・感想>

前川佐美雄の妻。そう紹介していいのだろうか。前川緑の歌集である。一首目から、この感触とこの感覚を求めていたのだ、と誰かに伝えたくなった。まるで胃袋を掴まれたかのようにまず心が先を欲し、それから、じわじわと一首一首が身体に入り込んで来る旨味と栄養となり、それがエネルギーと成って自分もこの様な感性を持ちたいと思えてきた体感と滋養。そして、彼女自身のオリジナリティがちゃんとある歌。こういう言い方でしかならないが、「短歌を続けていて良かった」と思える歌集である。<続>