本日の一首 ー 佐藤有一
きつねそば食べんとかかうるどんぶりに京都「七味家」七味の香る
佐藤有一『八雁』(2021年・5月号) p78
<メモ・感想>
単純明快、明朗快活な一首。そう思える歌が歌として成している時、実は、細やかなところに創意工夫が施されていることが多い。少なくとも、私は、その様に感じている。この一首は、まず語調が良い。軽やかさは、初句の「きつねそば」と相乗効果をもたらし、読み手は簡単に読んでしまう。だが、細部に目を向けると、「(食べんと)かかうる」という語の選択や、「どんぶり」という語の正確さが、この歌の骨格を強度にしていると感じられた。その下地があってこそ、加えて、下の句の「七味」の繰り返しという遊び心が活き活きして来る。「七味」か・・・と、うな垂れた。私にはまだ見えていない、まだ見えてこない、宇宙がある。