Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

本日の一首 ー 阿木津英 真野少

躁の日は花を摘み来て道端にわが並べ売る「10円」と書き

             真野少「明暗」

 の歌を読んだ直後、「うわあ、すごい、分かる分かる」と、一人で有頂天になった。その後も、この歌は好きな歌であり、たまに思い出す歌となった。凄い発想力だと感服していた。それは、今もこれからも、変わらない。

 が、しかしながら、時を経て、更に驚くことが待ち受けていた。阿木津英氏の第一歌集である『紫木蓮まで・風舌』を何気なく繰っていたところ、

鬱の日は花を買いきて家妻と親しむなどの発想憎し

          阿木津英「花と鬱」

 という歌が出て来たのだ。驚きだった。真野氏が阿木津氏の本歌取りとして、この歌を詠ったのかは定かでは無いが、それでも真野氏の歌は見事な返しだと思える。もう一つ言えることは、真野氏がこの本歌を覚えていたのか否かである。つまり、どれくらいの時をかけて「躁の・・・」の歌を作歌したのかである。

 その一連を考えると、歌を巡る様々な奥深さに慄く。けれども、阿木津氏の現実味を帯びた歌と真野氏の寓話的な歌が、どこかで通い合っていることに、慄きを越える愉しさを感じ入った。

<引用・参考文献>

 真野少『八雁』(2018年・9月号) p8

  阿木津英『紫木蓮まで・風舌』(1985)株式会社沖積舎 p103

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*当面の間、月曜日・木曜日を目処とした週二回の更新になります。何卒宜しくお願い申し上げます。