Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

本日の一首ー野上卓

皿の上にパセリ一片残されて窓の向こうは秋雨の街

    『 チェーホフの台詞』野上卓 本阿弥書店 (2021)

逐語訳:皿の上にパセリのひとかけらが残されている、そして、窓の向こうに秋雨の降る街がある。

 

この歌を選歌するか否か。私は迷い、結局、選歌した。「皿の上にパセリ一片残されて」の上の句。誰もが歌いたくなる素材、「食後に残されたパセリ」。下の句は合わせ技が試される要所である。期待して下の句を待つと、「窓の向こう」という、これも又、やや常套句めいた視点の動きがあり、結句に「秋雨の街」と、ここも、やや無難に詠んだ感がある。上の句と下の句の組み合わせであれば、ちぐはぐさが面白いという人も居るだろう。私が最終的に良いと思えたのは、「パセリが残されている」という受身で表現し、窓の向こうを見る作者が、それに依って、能動的に窓の向こうを見た、と解釈したからである。つまり、作者は自分の視点の変化、その時の心境を詠う、その脇役として、誰もが詠みたくなる「残されたパセリ」を扱うことが出来たと、私は思った。おそらくは、期待する程の虚無感は無いだろう、それよりも、歌として作品として成り立っているか、そういう意味で、この歌は、歌い方の巧妙さ、どこにも出て来ない、作者=我を、存在せしめた歌として、纏まりのある、興味深い一首であった。

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*当面の間、月曜日・木曜日を目処とした週二回の更新になります。何卒宜しくお願い申し上げます。

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