Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

本日の一首ー中西敏子 第二歌集 『呼子』

この道と決めて来れど迷ひたり蜜を流したやうな春昼

連なりてとんぼは夕日へ入りゆけり呼びもどすもの何もなき空

    『 呼子』中西敏子 ながらみ書房 (2021) p20 p27

 中西敏子氏の歌には、邪念が無い。こうしたらもっと上手くなる、こうしたらもっと万人受けがする、ここを詠えば歌になる、こうやって読者に伝わって欲しい、等の、そうした「邪な必死さ」が無いのである。かと言って、柔らかく、優しく、穏やか、とも異なる、歌の立ち姿に弱弱しさは無い。読後、ああ素晴らしいなと、羨望もやっかみも無く、心に沁みる。それでいて、いつも、知らず知らずのうちに、生き方や人生に繋がる、教訓の様な、道しるべの様な、何かが、歌に、在る。これ程、優れた歌集ながら「押し付けがましさ」など、皆無なのだ。歌を見よ、どれだけの自立をした心の上に、詠われているか。どれだけの安定した地を固めた上に、歌を作っているのか。そこに居続ける時間と場所と覚悟。それすらも見えない、人として問われる、天に問い得る、歌である。

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*当面の間、月曜日・木曜日を目処とした週二回の更新になります。何卒宜しくお願い申し上げます。

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