Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

本日の一首 ー 釋迢空

己斐駅を過ぎしころ ふとしはぶきす。寝ざめのゝちの 静かなる思ひ p452

十月に既(ハヤ)く 時雨の感じする雨あがり居つ。とんねるの外 p452

                『倭をぐな』

   釈迢空 釈迢空全歌集』(2016)角川ソフィア文庫

 

 私が最初に「釋迢空」に出会ったのは、現代短歌全集を読み始めた頃。「なんだこれは?」と言うのが、最も率直な感想であった。意味が分からなくて、余りにも分からず、息抜きに、同じ巻に名を連ねていた「渡辺順三」氏の歌を読みながら、どうしようもない気持ちで歌を眺めていた。

 時が過ぎた。2021年の10月より、再び、釋迢空に触れる機会がまわって来た。「もの凄い、逸材!」というのが、図々しくも再会時の感想となった。

 訳の分からない歌が、この上なく、美しい韻律を秘めた歌、になっていた。

 釋迢空の歌の特徴は、音楽の「付点四分音符」の様に、リズムを意図的に外して効果をもたらす、そして、それは、必ず成功している所にある。挑戦的な試みをしているのに、そこに、「遊び」はない。

 語順を変えることで、これ程までに、視覚的、聴覚的に、映えるように完成されている。そこには、己にしか成し得ない技巧、技法の域への追求の美学もあり、古典へ精通していた氏の、「納得する短歌」という掟を遵守した並べ方という、謙虚さもある。個を打ち出しながら、短歌の域を越えない一首、一首。

 自由に、自由に、と見えるが、より一層の短歌そのものの進歩への貢献を感じる。

 こんなにも、己を打ち出し、こんなにも、工夫を凝らし、こんなにも、完成美を感じさせる。

 どんなにか、孤独な、作業、であったのだろう。

 どんなにか、独りで、愉悦、したのであろう。

 つい、その創作過程に思いを巡らせてしまった。 

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*当面の間、月曜日・木曜日を目処とした週二回の更新になります。何卒宜しくお願い申し上げます。

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