Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

本日の一首 ー 河野幸子

今日の日の溺るるごとき一人居の夕べ机を手に押して立つ

   河野幸子『八雁 通巻60号』(2021年11月号)p3

 「助詞」といえば、河野幸子氏が浮かぶ。玉城徹氏は「(短歌は)最後は人間だ」と仰ったそうだが、その通りだと思う。何かの場で、河野氏が「もう一度、添削を受けたい」と発言されたのを耳にしたことがある。それくらい、まだまだ足りないとご本人はお思いなのかと、胸に小さく射られたように、その言葉を聞いた。派手な歌は無い。巧みな語彙力も際立っては無い。穿った目線も無い。ただ、とても基本的な部分を丹念に守り通して作られている。だからこそ、「助詞の美しさ」はその正確さに裏付けられて、ほんの少しの日常の場面がしっかりとした歌に成って行く。こんなことが歌になるのか、こんなことを歌に出来たら、と思う場面を着実に詠われている。

 上記の歌が、そうである。下の句の「夕べ机を手に押して立つ」が滑り込む様に、何の引っ掛かりもなく、韻律の良さで、心に沁み通ってくる。そして、この「押して」が出て来る、丁寧な観察力、作歌姿勢。 気持ちの沈んだ時に、ここまで深く、自身の行為を追いかけることが出来るからこそ、何気ない日常場面を詠い上げることが出来る。

 「一日、一首」と何度も説かれたことを思い出す。

   追いつきたい、と思うならば・・・・・・。

   努力、しかない。

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*当面の間、月曜日・木曜日を目処とした週二回の更新になります。何卒宜しくお願い申し上げます。

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