本日の一首 ー 上妻朱美『姶良』(2021)砂子屋書房
わずかにも伸びたる爪が気にかかり午前二時ごろ起き出でて切る p42
ほとばしる水の下にて擦ったり回したりして大皿洗う p49
大蒜とローズマリーを惜しみなくオリーブオイルに鰯を揚ぐる p66
花びらの一枚いちまいに水くばる春の桜のよく機能して p67
無邪気なる笑顔ばかりが甦る五十二歳の友を知らねば p81
駅に子を降ろして今朝も晩秋のかがやき溜むる海を見に行く p95
台風の近づき来るを知る猫か船揚場にて船を見上ぐる p143
条なして空間を降りくる雨を風が大きくひるがえしたり p165
上妻朱美氏の力は以前より認識していたつもりでありながら、この歌集を開き、本来の底力を再認識せざるを得なかった。言い方は良くないが、余りにも洗練されていた為、ノーマークで目を通していたのだ。これは、単なる日常のスケッチではない。三首目の言葉の選択の相乗効果、四首目の「機能」という語を持ってくる果敢さ。六首目の何とも言えない感性。六首目、七首目は、詠いたい事物や現象を見事に「歌」にする完成度の高さ、を感じた。
熟練にしてなお素直な歌が、眩しい。
これからの、上妻氏の歌を読む愉しみが、益した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
*当面の間、月曜日・木曜日を目処とした週二回の更新になります。何卒宜しくお願い申し上げます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・