Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

2018-05-01から1ヶ月間の記事一覧

第四十四回 『黄昏に』土岐哀果

『黄昏に』土岐哀果(明治45年)<選歌17首>(全352首より) このー小著の一冊をとつて、 友、石川啄木の卓上におく。 もの思ひつつ、街路を歩めば、 行人の顔の、さもしさよ。 ぺつと唾する。 働くために生けるにやあらむ、 生くるために働けるにや、 わか…

第四十三回『一握の砂』石川啄木

『一握の砂』石川啄木(明治43年)<選歌七首>(全551首より) 大といふ字を百あまり 砂に書き 死ぬことやめて帰り来たれり 飄然と家を出でては 飄然と帰りし癖よ 友はわらへど わが泣くを少女等(をとめら)きかば 病犬(やまいぬ)の 月に吠ゆるに似たり…

第四十二回 『酒ほがひ』吉井勇

『酒ほがひ』吉井勇(明治43年)<選歌12首>(全718首より) 衰へしともなほ知らぬ君見ればああ冷笑ぞ頬にのぼりぬる 歎きつつ三年(みとせ)のまへの相知らぬふたつの世へと別れて帰る ただひとつ心の奥のこの秘密あかさず別る憾(うらみ)なるかな いかに…

第四十一回 『相聞』與謝野寛

『相聞』與謝野野寛(明治43年) <選歌十五首>(全997首より) ころべころべころべとぞ鳴(な)る天草(あまくさ)の古(ふ)りたる海(うみ)の傷(いた)ましきかな 三十(さんじふ)をニ(ふた)つ越(こ)せども何(なに)ごとも手にはつかずてもの思…

第四十回 『覚めたる歌』金子薫園

『覚めたる歌』金子薫園(明治43年) <選歌十三首>(全357首より) 新しきわれを見いでしとある日に覚めたる歌をうたひつづくる しづやかに梢わたれる風の音をききつつ冷えし乳を啜(すす)りぬ 無花果の青き果(み)かめばなぐさまる、ものうきことの夕ま…

第三十九回 『收穫』前田夕暮

『收穫』前田夕暮(明治43年) <選歌十一首>(全541首より) 魂(たましひ)よいづくへ行くや見のこししうら若き日の夢に別れて 襟垢のつきし袷と古帽子(ふるぼうし)宿をいで行(ゆ)くさびしき男(をとこ) 何物か胃に停滞(ていたい)しあるがごと思は…