2020-01-01から1年間の記事一覧
斉藤政夫氏の散文詩『はね橋』への感想 斉藤氏の文章は、美しい。御本人は「散文詩」と称しているが、これは「小説」に値する「流れ」がある。以前、あるいは、昔、吉本ばなな氏がインタビューで、「小説家に必要なものは『正確さ』」だと述べられていた意味…
はね橋 2020-12-02 | 詩 いつもより早く目が覚めた。体中の毛が全部、白く変わっていた。もう、その時なのだ。聞いてはいたが、やはり……、そうか。仕方ない、行かねばなるまい。これで、一切の苦が、体の痛み・こわばり、心の奥の不安・焦燥・沈鬱がことごと…
斉藤政夫氏の詩への感想 読んで泣けば良いという訳では無いが、この詩には、細部に斉藤氏の表現への希求が、確かに見られる。心の底から書かずにはいられない渦が巻き上がり、斉藤氏の気息が嵌め込んだ言葉が顕れる。例えばそれは、『遺伝的なもの』の中の「…
【生きてゆくのが苦しい(2)】作・斉藤政夫 遺伝的なもの 日下新介の詩はいいな平坦でぎこちないけど飾りがなくて苦難の生い立ち哀しみのかたわれに喜びがあったことまっすぐに 歌ってる 私にも 苦難の思いで……ちょっとだけ ありました父への憎しみと母へ…
夕暮れの光の海に幾重にも漣広げ船すすみゆく 斉藤政夫(「八雁」会員) 阿木津英選 一位 互選六点 平成二十四年 九月八日・九日 第一回八雁短歌会全国大会 in 北九州 ( *参加者75名) 2020年11月のある日、斉藤政夫氏よりメールにて「さて、私、疲れたの…
<石川啄木の歌の背景> 啄木の歌は簡単にみえて、返って分かりづらい。 自然主義はいつから始まったのか? ・啄木も自然主義を詠った歌人の一人である。 M29・M30年 正岡子規が生きていた頃、日清戦争があった。子規は従軍している。日清戦争に勝って日本は…
「きらめきのゆきき ひかりのめぐみ にじはゆらぎ 陽は織れど かなし。 青ぞらはふるひ ひかりはくだけ 風のしきり 陽は織れど かなし。」 《中略》 「にじはなみだち きらめきは織る ひかりのおかの このさびしさ。 こほりのそこの めくらのさかな ひかりの…
「ほろびのほのほ湧きいでて つちとひととを つつめども こはやすらけきくににして ひかりのひとらみちみてり ひかりにみてるあめつちは ・・・・・・・・・・・。」 宮澤賢治 『十力の金剛石』福武書店(1983) この詩を前に、私の、私の、孤独など、これっ…
この花も終ると思ふわびしさに夕寒む寒むと剪り惜しみつつ 江口きち 『江口きち歌集(『武尊の麓』)より 』 至芸出版社 (1991) 色々な本と色々な出会い方をする。その人その人によってそれは違うものである。私が「江口きち」の名を聞きかじったのは、五…
ついに地がうごきいずると思うまで見あげてあれば脚はさむしも 村木道彦 現代歌人文庫『村木道彦歌集』 国文社 (1979) 「八雁」のS藤様の紹介で手にした歌集である。S藤様によると、塚本邦雄氏、岡井隆氏、寺山修司氏が60年代から70年代にかけて「前衛御…
春庭(はるには)は白や黄の花のまつさかりわが家(いへ)はもはやうしろに見えぬ 青い野にトンネルをうがつ阿呆等よわれはあちこちの雲をとらへる 夜なかごろ窓をあければ眼(ま)なかひの星のおしやべりに取りかこまれぬ 石川信雄『cinema』 ながらみ書房(…
不機嫌なあなたが好きと黒板に書きし十五の春のゆふぐれ ためらひてとぶ鳥ありや南風に擁(いだ)かれてわがおくつきは建つ 軍神になれざりしかな回天の錆びゆく春の夜も更けにけり 教卓にクリームパンの置かれゐてああなんとなく旅に出やうか だから心配し…
影深き沼津の鳶を思ふかな七草粥も昨日に過ぎて 玉城徹『左岸だより』 短歌新聞社(2010) 著名な方だということは知っているが、私はまだこの歌集を手にしていない。この歌を知ったのは、ある短歌の勉強会でのことである。私は偶々、同席し作業をしていた。…
怒をばしづめんとして地の果(はて)の白大陸(しろたいりく)暗緑海(あんりよくかい)をしのびゐたりき 宮柊二『宮柊二歌集』 宮英子・高野公彦編 岩波文庫 (1992) 今年の春、一人住まいを始めた。言わずもがな、家庭の事情だった。看護をしながら短歌に…
窓すべて夕焼したる建物のひとつの窓がいま灯(とも)したり 佐藤佐太郎『しろたへ』『現代短歌 9月号』現代短歌社(2020)p65 佐藤佐太郎が好きだと言う方が、周囲に多い。掲出歌は私が初めて目にした、佐藤佐太郎の歌である。上手い。内容もいい。けれども…
ゆふの灯のつかぬアパートの窓ひとつ幼きものの干物(ほしもの)さがる 上田三四二『鎮守』 『現代短歌 9月号』現代短歌社(2020)p68
学生の影疎らなるキャンパスやひときわさびし三月末日 篠原三郎『キャンパスの四季』 みずち書房(1991)p26 我等「八雁」にいつも、励ましのお便りをお送りくださる方がいる。同姓同名だろうか。この本は、2012年に、私が「八雁」の正会員になった時に詠っ…
さをはうがつ なみのうへのつきを ふねはおそふ うみのうちのそらを 「棹穿波底月 船圧水中天」 棹は穿つ波の上の月を船は圧ふ海の中の空を 紀貫之『土佐日記』 (934年) 19歳の頃、受験勉強の最中に、予備校のテキストで出会った、歌。余程、救われたので…
仰ぎつつ歩みをとどむ夕ぞらはいまだも青きひかりながらふ 阿木津英『黄鳥』砂子屋書房(2014)p151 当たり前の事、普遍的な事、それを見つける為に、感じ、感じ、感じ取る事。そして、木を彫り形が現れる如く、言葉で五感の感ずるところを内奥から表に出だ…
一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております 山崎方代 『山崎方代全歌集』不識書院(1955)p125 片思いだったのか、悲恋の相思相愛だったのか。いかようにも、切ない思いを斜め上から切り取った一首。本当の恋、とはこのようなものではないだろう…
身をのべてまた身を折りて思ふなり棺よりややベッドは広し 稲葉京子 『紅を汲む』短歌新聞社(1999)p59 昨日の選歌の前隣りにある一首。この歌は、難いほど上手い歌ではなかろうか。上手いというのは表面的な言葉の運びだけでなく、もっと強い発想力にある…
君は今何をしてゐむ働きてわれはうつむきて歌を作れり 稲葉京子 『紅を汲む』短歌新聞社(1999)p59 上手い歌はごまんとある。この歌はどうであろう。直情的な一首。これこそが稲葉京子氏のひた向きさを表しているのではなかろうか。私は御著作を拝読する度…
一人前のカップラーメン分け合って食う人いずこ真夜中に欲し 石川亞弓 「八雁」(2014年9月号)p24 最近、頭から離れない一首である。御本人の許可を得て記載した。2014年とあるから今から六年前、石川さんには、ラーメンを深夜に共に分け合う相手がいなかっ…
ぞろぞろと鳥けだものを引きつれて秋晴れの街にあそび行きたし 前川佐美雄 『植物祭』 靖文社 (1947)p82 前川佐美雄が好きである。第一歌集の『植物祭』しか手元にはないが、ちょっと頁をめくるだけで、生きる勇気が出る。当然、「前川佐美雄が好きなんで…
醜さを隠してきのふけふの雪 詫びねばならぬひと幾人か 中西敏子 『天のみづおと』 ながらみ書房 (2011)p43 今日の一首は、同じ「八雁」に属するⅠ上氏よりご紹介頂いた歌人の歌である。歌集を通読し、始めに感じた感覚を一言で表すと「透明感」であった。…
何事もあらざるひと日ゆうぐれは赤きズボンをはきて出でゆく 阿木津英 『紫木蓮まで・風舌』 沖積舎 (1985)p175 この歌を最初に拝読したのは、今から六、七年前である。当時、私は35歳前後であった。何しろ驚いたのは、私は、この歌と全く同じ動機で全く同…