Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

2018-06-01から1ヶ月間の記事一覧

第五十三回 『さすらひ』尾山篤二郎

『さすらひ』尾山篤二郎(大正二年)<選歌10首>(全544首より) 霧(きり)か、闇(やみ)か、樹間(こま)うす青(あを)くただよへりしたいままなる樹木(じゆもく)の呼吸(こきふ) 野(の)のなからひ、闇(やみ)のみどりのいやはてに光(ひか)るも…

第五十二回 『春かへる日に』松村英一

『春かへる日に』松村英一(大正二年)<選歌6首>(全454首より) 白き歯を見せてはよくも笑ひつる女の去りし家に夜の落つ 空の上ほのかに明るみ柔かみ雲の動くが見ゆる夕ぐれ われいつか己が心もうち忘れ夕ぐれ時の来るをば待つ 白き布取れば静かに子はあ…

第五十一回 『涙痕』原阿佐緒

『涙痕』原阿佐雄(大正二年)<選歌4首>(全464首より) この涙つひにわが身を沈むべき海とならむを思ひぬはじめ 生と死のいづれの海にただよへる吾とも知らずいくとせか経む おなじ世に生れてあれど君と吾空のごとくに離れて思ふ 夕されば恋しきかたに啼…

第五十回 『旅愁』内藤鋠策

『旅愁』内藤鋠策(大正二年)<選歌9首>(全221首より) ほととぎす、胡桃若葉の岡つづき小雨に慣れし家のこひしき 鳩喚べば鳩はやさしくさびしげに人を見るなり秋風の家 うつむきてとみに心のおとろへをおもふ人あり夜の雨ぞする 掌(てのひら)の冷たか…

第四十九回 『日記の端より』尾上柴舟

『日記の端より』尾上柴舟(大正二年)<選歌13首>(全577首より) 温泉(ゆ)の烟凝りて流るゝ玻璃の戸に山の椿の一花ぞ濃き 風わたる梢を見ても胸をどるまこと山にて恋しきは海 動きては威をば損ずといひがほに立ちたる山も一言は云へ 新しき疲れの中に昨…

第四十八回 『かろきねたみ』岡本かの子

『かろきねたみ』岡本かの子(大正元年)<選歌8首>(全70首より) 力など望まで弱く美しく生まれしまゝの男にてあれ 血の色の爪に浮くまで押へたる我が三味線の意地強き音 朝寒の机のまへに開きたる新聞紙の香高き朝かな 三度ほど酒をふくみてあたゝかく…

第四十七回 『新月』佐佐木信綱

『新月』佐佐木信綱(大正元年)<選歌11首>(全300首より) あたたかき陸(くが)を慕(した)ひて数千(すうせん)の鳥(とり)むれ渡(わた)る松前(まつまへ)の秋(あき) 長崎(ながさき)の船出(ふなで)の朝(あさ)を小舟(をぶね)漕(こ)ぎ一…

第四十六回 『死か藝術か』若山牧水

『死か藝術か』若山牧水(大正1年)<選歌7首>(全386首より) 蒼(あを)ざめし額(ひたひ)つめたく濡(ぬ)れわたり月夜(つきよ)の夏(なつ)の街(まち)を我(わ)が行(ゆ)く ただひとつ風(かぜ)にうかびてわが庭(には)に秋(あき)の蜻蛉(…

第四十五回 『悲しき玩具』石川啄木

『悲しき玩具』石川啄木(明治45年)<選歌9首>(全194首より) 途中にてふと気が変り、 つとめ先を休みて、今日も、 河岸をさまよへり。 本を買ひたし、本を買ひたしと、 あてつけのつもりではなけれど、 妻に言ひてみる。 家を出て五町ばかりは、 用のあ…