Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

2017-01-01から1年間の記事一覧

第三十四回 個人研究(7)

岡井隆『禁忌と好色』を読む 2017.6.29 すりガラス様の濁りに耐へながら後半生を生きむかわれも 興るものは、かならず亡びると、人ごとのように言う。ある愛のかたむきてゆくかそけさを母(ぼ)韻(ゐん)推移のごとく嘆かふ 一首目、すりガラスが姿かたちの澄ま…

第三十三回 個人研究(6)

第五回 研究発表 2017.3.26 人だかりの中にさびしく我きたり相撲の勝負まもりつつ居り (大正五年、10 初夏) 人だかりの中に、満たされない気持ちで私はやって来た、そこで巷で賑わっている相撲の勝負を見守って居た。 『あらたま』で「さびし(寂し)」は…

第三十二回 個人研究(5)

第四回 研究発表 2017.1.23 大正三年~大正四年 春雨はくだちひそまる夜空より音かすかにて降りにけるかも(大正4年、4 春雨) 直訳:春雨は日が暮れてひっそりとなった夜空からかすかに降っていることだ ひっそりとした夜空から、という表現が目に留まっ…

第三十一回 個人研究(4)

第三回 研究発表 2016.12.24 「大正二年 九月より」よひあさく土よりのぼる土の香を嗅ぎつつ心いきどおほり居り (2.折にふれ) 直訳:日が暮れてまだ間もない頃、地から湧く土の香りを嗅ぎながら、なお腹立たしい気持ちでいる。 解釈:言葉の意味は取れる…

第三十回 個人研究(3)

第二回 研究発表 2016.11.20 「大正二年 九月より」 ふり灑そそぐあまつひかりに目の見えぬ黒き蛼いとどを追ひつめにけり (1.黒き蛼)いと 直訳:一面にふりそそぐ日のひかりの中で目の見えない黒い蛼(オカマコオロギ)を追い詰めたものだ。解釈:オカマ…

第二十九回 個人研究ー斎藤茂吉(2)

「歌集『あらたま』からわかる茂吉の歌の魅力とは」2016年10月25日 第一回 研究テーマについて 【テーマ】歌集『あらたま』からわかる茂吉の歌の魅力とは 【題材】斎藤茂吉『あらたま』、その他斎藤茂吉歌集より 【内容】『あらたま』の一首評を行い、今も多…

第二十八回 個人研究ー矢沢歌子(1)

長生きを誰も怪しまず車椅子連ねて寺に初詣でする 長生きを誰も怪しまず車椅子連ねて寺に初詣でする 矢沢歌子 〔短歌研究・二〇一六年三月号・特集:現代代表女性歌人作品集より〕 最初に読んだときは、(周りの人が、長生きをしている人を怪しまずに)と取…

第二十七回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(10)

第十回 個人研究発表ー『天平雲』選歌 前川佐美雄 第4歌集『天平雲』(1942年・全710首)より 〈選歌22首〉草ふかき野の眞晝間に組み伏する逞(たくま)しき夢も過ぎてかへらず炎天におのれ鋭(するど)き眼(め)をあきて身がまふるがに生きぬくとする夕虹は明る…

第二十六回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(9)

第九回 研究発表(2017.9.18)〈前川佐美雄生誕までの歌壇情勢〉 1、和歌から短歌へ 明治26年~明治33年明治維新後、少なくとも明治10年(1877)までは、和歌から短歌への近代化は、歌の世界には浸透していかなかった。歌壇を形成していたのは、堂上派、鈴…

第二十五回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(8)

第八回 研究発表(2017.7.19)新興短歌の軌跡における佐美雄の位置 昭和10年頃までの文壇は、既成作家・プロレタリア作家・新興芸術派作家の三派が鼎立し抗争していた。そして、それに影響を受けた歌壇情勢は、三派鼎立という形をとっていくこととなる。 す…

第二十四回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(7)

第七回 前川佐美雄の人物像(2017.5.22)(1) 略歴(前編)(2) 略歴(後編)・(次回掲載)(3) 歌、短歌史にみる人物像(次回掲載) (1)略歴(前編) 明治36年(1903)、2月に奈良県に生まれる。代々の地主一家で、経済的に豊かな家庭環境であっ…

第二十三回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(6)

第六回 研究発表(『大和』選歌)(2017.2.22)前川佐美雄 第2歌集『大和』(1940・全550首)より44首 〈選歌13首〉 ゆく秋のわが身せつなく儚はかなくて樹きに登りゆさゆさ紅葉こうえふ散らす 春の日なかに門しめてこもり犬と遊べど畜生われを仲間と思ふな …

第二十二回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(5)

第五回 (2)研究発表 (2017.1.29)『前川佐美雄』三枝昂之著(五柳書院・1993)のまとめ 1、 「昭和短歌」という領域の想定 明治以降の短歌は、近代短歌と現代短歌に区分されることが多い。 <大正期>木俣修は『昭和短歌史』の第一章で、「大正時代が十五…

第二十一回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(4)

第四回 (1)歌集『白鳳』より選歌と感想 (2017.1.22)前川佐美雄 第3歌集『白鳳(はくほう)』(1941・全410首)より28首*第3歌集『白鳳』は、第2歌集『大和』(1940)以前に、作歌された歌をおさめている。 〈選歌二十八首〉 いきものの人ひとりゐぬ野…

第二十回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(3)

第三回 研究発表 (2016.12.27)前川佐美雄 第1歌集『植物祭』(575首)より選歌42首 〈選歌四十二首〉 かなしみを締しめあげることに人間のちからを盡つくして夜よるもねむれず 人間の世にうまれたる我なればかなしみはそつとしておくものなり このうへもな…

第十九回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(2)

第二回 研究発表(歌集『春の日』より選歌と疑問点)(2016.11.19) 前川佐美雄 第5歌集『春の日』(1943)より二十一首*第5歌集『春の日』は、第1歌集『植物祭』以前に、作歌された歌をおさめている。 〈選歌二十一首〉 向日葵のしげれる中に人目(ひとめ…

第十八回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(1)

第一回 研究テーマについて(2016.10.25) 【テーマ】「私はなぜ前川佐美雄が好きか」 【題材】 1、 選歌十首(前川佐美雄歌集・全14集) 2、 人物像の調査 3、時代背景の調査 4、 相対的な前川佐美雄についてのまとめ 5、 絶対的な前川佐美雄についてのまと…

第十七回 『独り歌へる』 若山牧水

『独り歌へる』 若山牧水(明治43年) 「選歌8首」(全515首より)夕されば風吹きいでぬ闇のうちの樹梢(こむれ)見ゐつつまたおもひつぐわかれ来て幾夜(いくよ)経ぬると指折れば十指(とゆび)に足らず夜のながきかな胸にただ別れ来(こ)しひとしのばせ…

第十六回 若山牧水 『海の声』

若山牧水(わかやまぼくすい) 『海の声』(明治41年刊行)より選歌(全475首) 〈選歌11首〉 われ歌をうたへりけふも故わかぬかなしみどもにうち迫はれつつ 闇の夜の浪うちぎはの明るさにうづくまりゐて蒼海あほうみを見る 海明うみあかり天そらにえ行かず…

第十五回 平野万里 『わかき日』

平野万里(ひらのばんり) 『わかき日』(明治40年刊行)より選歌(全414首) 〈選歌11首〉眼めとづれば心を占しめしいつはりの落ちし、かなしき獄ひとやの見ゆる。ゆめの海、水泡みなわや凝れる、うるはしき少女をとめぞしのぶ、花藻のかげに。おなじくは焼…

第十四回 草山隠者 『池塘集』

草山隠者(青山霞村・あおやまかそん)『池塘集(ちとうしゅう)』(明治39年刊行)より選歌(全327首)*この歌集は、私家版・非売品として発行された。 〈選歌13首〉 はるあそび野宮山寺靄のうち花を訪ふ人草を踏む人 三千の花の宮女に歌はれた才もないの…

第十三回 落合直文 『萩之家歌集』

落合直文(おちあいなおぶみ)『萩之家歌集』(明治39年刊行)より選歌(全1061首)*第一歌集(遺歌集)であり、直文の没後、落合直幸にて編纂された。 〈選歌17首〉 いにしえを志のぶなみだの袖の上にいやふりまさる秋のむら雨 千年まできこえけるかな桜田…

第十二回 相馬御風 『睡蓮』

相馬御風 『睡蓮』(明治38年刊行)より選歌(全348首) 〈選歌18首〉 心なく口くちにあてたる花びらに命いのちおぼゆる春のくれかた 天あめさしてなげつる花種たねの根はもたずかへりてはまたさびし野の末 君が家やへただ一すじのみちなれど心うかりきかの…

第十一回 窪田通治 『まひる野』

窪田通治『まひる野』(明治38年刊行)より選歌(全293首) 〈選歌14首〉 かひなくも流せる涙かがやきて今日けふよろこびの眼に甦る 砂白き磯につくばひ秋の日を大海原に手を浸ひたし見る 花野めぐり走せ行く水や手ひたして冷きにしも驚くものか 朝にしてた…

第十回 山川登美子・増田まさ子・與謝野晶子 『恋衣』

山川登美子 増田まさ子 與謝野晶子共著『恋衣』(明治38年刊行)より選歌 〈選歌〉 「白百合」山川登美子 詩人薄田泣菫(すすきだきゅうきん)の君に捧げまつる 手もふれぬ琴柱ことぢたふれてうらめしき音たてわたる秋の夕かぜ 何といふところか知らず思ひ入…

第九回 正岡子規 『竹の里歌』

正岡子規 『竹の里歌』より十首 (明治30年~明治35年)〈選歌十首〉 籠にもりて柿おくりきぬ古里の高尾の楓色づきにけん 試みに君の御歌を吟ずれば堪へずや鬼の泣く声聞こゆ 昔見し面影もあらず衰へて鏡の人のほろほろと泣く 仰むけに竹の簀の子に打臥して…

第八回 尾上柴舟 『銀鈴』

尾上柴舟 『銀鈴』(ぎんれい)より十首 〈選歌十首〉 今の世は来む世の影か影ならば歌はその日の豫言ならまし 夜ごと逢はむ夢のところや此処ならし君と手分つ菩提樹のかげ 江の水にもし平和やはらぎのかげあらばそこにとまらむ流れ藻の花 岩かげに吹きつけ…

第七回 佐々木信綱 『思草』

佐々木信綱 『思草』(おもひ草・おもひ艸)より十首 〈選歌十首〉 風にゆらぐ凌霄のうせん花かつらゆらゆらと花ちる門に庭鳥あそぶ 変り行く昨日の我われ身今日のわれいづれまことの我われにかあるらむ 竹やぶのいづこも同じ垣根道いづれなりけむ伯母君の家…

第六回 みづほのや 『つゆ艸』

みづほのや 『つゆ艸』(つゆくさ)より十一首 〈選歌十首〉 淋しくも暮るる空かな旅にしていかにといはん友あらなくに 太刀なでてよわき心になきもしつ故郷とほきともし火の前 この川のあらきにいます瀬の神のみ魂の牲と真玉ささぐる 君をしも伴ひたてて旅…

第五回 鳳晶子 『みだれ髪』

鳳晶子 『みだれ髪』よりニ十首 〈選歌十首〉 夜の帳(ちょう)にささめき尽きし星の今を下界(げかい)の人の鬢のほつれよ 歌にきけな誰れ野の花に紅き否(いな)むおもむきあるかな春罪(はるつみ)もつ子 紺青(こんじゃう)を絹にわが泣く春の暮やまぶき…