Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

2020-08-01から1ヶ月間の記事一覧

本日の一首

影深き沼津の鳶を思ふかな七草粥も昨日に過ぎて 玉城徹『左岸だより』 短歌新聞社(2010) 著名な方だということは知っているが、私はまだこの歌集を手にしていない。この歌を知ったのは、ある短歌の勉強会でのことである。私は偶々、同席し作業をしていた。…

本日の一首

怒をばしづめんとして地の果(はて)の白大陸(しろたいりく)暗緑海(あんりよくかい)をしのびゐたりき 宮柊二『宮柊二歌集』 宮英子・高野公彦編 岩波文庫 (1992) 今年の春、一人住まいを始めた。言わずもがな、家庭の事情だった。看護をしながら短歌に…

本日の一首

窓すべて夕焼したる建物のひとつの窓がいま灯(とも)したり 佐藤佐太郎『しろたへ』『現代短歌 9月号』現代短歌社(2020)p65 佐藤佐太郎が好きだと言う方が、周囲に多い。掲出歌は私が初めて目にした、佐藤佐太郎の歌である。上手い。内容もいい。けれども…

本日の一首

ゆふの灯のつかぬアパートの窓ひとつ幼きものの干物(ほしもの)さがる 上田三四二『鎮守』 『現代短歌 9月号』現代短歌社(2020)p68

本日の一首

学生の影疎らなるキャンパスやひときわさびし三月末日 篠原三郎『キャンパスの四季』 みずち書房(1991)p26 我等「八雁」にいつも、励ましのお便りをお送りくださる方がいる。同姓同名だろうか。この本は、2012年に、私が「八雁」の正会員になった時に詠っ…

本日の一首

さをはうがつ なみのうへのつきを ふねはおそふ うみのうちのそらを 「棹穿波底月 船圧水中天」 棹は穿つ波の上の月を船は圧ふ海の中の空を 紀貫之『土佐日記』 (934年) 19歳の頃、受験勉強の最中に、予備校のテキストで出会った、歌。余程、救われたので…

本日の一首

仰ぎつつ歩みをとどむ夕ぞらはいまだも青きひかりながらふ 阿木津英『黄鳥』砂子屋書房(2014)p151 当たり前の事、普遍的な事、それを見つける為に、感じ、感じ、感じ取る事。そして、木を彫り形が現れる如く、言葉で五感の感ずるところを内奥から表に出だ…

本日の一首

一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております 山崎方代 『山崎方代全歌集』不識書院(1955)p125 片思いだったのか、悲恋の相思相愛だったのか。いかようにも、切ない思いを斜め上から切り取った一首。本当の恋、とはこのようなものではないだろう…

本日の一首

身をのべてまた身を折りて思ふなり棺よりややベッドは広し 稲葉京子 『紅を汲む』短歌新聞社(1999)p59 昨日の選歌の前隣りにある一首。この歌は、難いほど上手い歌ではなかろうか。上手いというのは表面的な言葉の運びだけでなく、もっと強い発想力にある…

本日の一首

君は今何をしてゐむ働きてわれはうつむきて歌を作れり 稲葉京子 『紅を汲む』短歌新聞社(1999)p59 上手い歌はごまんとある。この歌はどうであろう。直情的な一首。これこそが稲葉京子氏のひた向きさを表しているのではなかろうか。私は御著作を拝読する度…

本日の一首

一人前のカップラーメン分け合って食う人いずこ真夜中に欲し 石川亞弓 「八雁」(2014年9月号)p24 最近、頭から離れない一首である。御本人の許可を得て記載した。2014年とあるから今から六年前、石川さんには、ラーメンを深夜に共に分け合う相手がいなかっ…

本日の一首

ぞろぞろと鳥けだものを引きつれて秋晴れの街にあそび行きたし 前川佐美雄 『植物祭』 靖文社 (1947)p82 前川佐美雄が好きである。第一歌集の『植物祭』しか手元にはないが、ちょっと頁をめくるだけで、生きる勇気が出る。当然、「前川佐美雄が好きなんで…

本日の一首

醜さを隠してきのふけふの雪 詫びねばならぬひと幾人か 中西敏子 『天のみづおと』 ながらみ書房 (2011)p43 今日の一首は、同じ「八雁」に属するⅠ上氏よりご紹介頂いた歌人の歌である。歌集を通読し、始めに感じた感覚を一言で表すと「透明感」であった。…

本日の一首

何事もあらざるひと日ゆうぐれは赤きズボンをはきて出でゆく 阿木津英 『紫木蓮まで・風舌』 沖積舎 (1985)p175 この歌を最初に拝読したのは、今から六、七年前である。当時、私は35歳前後であった。何しろ驚いたのは、私は、この歌と全く同じ動機で全く同…