Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

2018-01-01から1年間の記事一覧

第七十回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(27)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑬

第七十回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(27)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑬ ー基盤模索時代(1)ーp131 『白鳳』の後記では、佐美雄は「かへりみると昭和四、五年の二年間はだいたい作歌を中止している」「昭和六年になつて「短歌作品」…

第六十九回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(26)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑫

第六十九回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(26)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑫ 『白鳳』の世界—シュールレアリスムの内面化 p126 1、《野》の発見 野にかへり野に爬虫類をやしなふはつひに復讐にそなへむがため 『白鳳』の巻頭歌である。…

第六十八回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(25)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑪

第六十八回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(25)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑪ 『白鳳』の世界—シュールレアリスムの内面化 p126 『白鳳』は佐美雄の本としては目立たない歌集である。内容的に地味だということではない。出版経緯がこの歌…

第六十七回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(24)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑩

第六十七回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(24)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑩ 〇『植物祭』の史的意義の補足(p114) モダニズムとプロレタリアといった区分を抜きにして、昭和のはじめに登場した新興短歌は、大正期短歌の否定をモチーフ…

第六十六回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(23)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑨

第六十六回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(23)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑨ 〈『植物祭』の史的意義 〉 〇外的な枠組みが本質的な問題ではない大切なのは“方法”である(という主張)。 p105 〇プロレタリア短歌からもモダニズム短歌から…

第六十五回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(22)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑧

第六十五回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(22)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑧〇表現の特質 ・自己の客体化 ・自他の二重性 ・自他の交換 ・既成への否定意志今回は、上記の「既成への否定意志」についてを要約します。 〈表現の特質ー既…

第六十四回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(21)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑦

第六十四回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(21)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑦ 〇表現の特質 ・自己の客体化 ・自他の二重性 ・自他の交換 ・既成への否定意志今回は、上記の「自他の交換」についてを要約します。 〈表現の特質ー自他の交…

第六十三回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(20)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑥

第六十三回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(20)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑥ 〇表現の特質 ・自己の客体化 ・自他の二重性 ・自他の交換 ・既成への否定意志 今回は、上記の「自他の二重性」についてを要約します。 〈表現の特質ー自他…

第六十二回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(19)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑤

第六十二回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(19)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ⑤ 〇表現の特質 ・自己の客体化 ・自他の二重性 ・自他の交換 ・既成への否定意志 今回は、上記の「自己の客体化」についてを要約します。 〈表現の特質ー自己…

第六十一回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(18)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ④

第六十一回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(18)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ④ 1、誕生から『植物祭』までー④〈『植物祭』巻頭歌から読み取れる特徴 〉 ・表現の斬新さを求める姿勢 巻頭歌 かなしみを締(し)めあげることに人間のちから…

第六十回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(17)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ③

第六十回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(17)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ③ 1、誕生から『植物祭』までー③ 〈『植物祭』の世界 〉 ー概略ー 〇表紙へのこだわり 絵画を志していた前川佐美雄は、本人が衝撃を受けた古賀春江の絵を表紙に…

第五十九回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(16)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ②

第五十九回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(16)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ② 1、誕生から『植物祭』までー② 再上京した佐美雄は、口語歌運動からでた「プロレタリア歌人」と「モダニズム歌人」、いわゆる革新派の新興短歌、そこからま…

第五十八回 私はなぜ前川佐美雄が好きか(15)ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ①

第五十八回 ー『前川佐美雄』三枝昂之 五柳書院(1993)に学ぶ① 1、誕生から『植物祭』まで 1903年 明治36年 2月5日 奈良県 忍海(おしみ)にて、前川佐美雄誕生 大正10年 4月 「心の花」誌上デビュー(18歳) 大正11年 上京 大正12年 古賀春江の絵画を見て…

第五十七回 『蹈絵』白蓮

第五十七回 『蹈絵』白蓮(大正四年)<選歌8首>(全319首より) われといふ小さきものを天地の中に生みける不可思議おもふ 蹈絵もてためさるる日の来しごとも歌反故いだき立てる火の前 吾は知る強き百千の恋ゆゑに百千の敵は嬉しきものと 天地の一大事とな…

第五十六回 『潮鳴』石榑千亦

第五十六回 『潮鳴』石榑千亦(大正四年) <選歌8首>(全377首より) 天も地もしめりもちたる曇り日に 白樺の木の目にきらきらし 旅にして剪りたる爪の 黒くなりて又剪りぬべく 日数経にけり 日は暮れぬ 山も 野も 海も見えずなりて 帰るべき家のただ目に…

第五十五回『生くる日に』前田夕暮

第五十五回 『生くる日に』前田夕暮(大正三年) <選歌九首>(全534首より) わが行くはひろき草場のはつ冬のうす日だまりぞ物思ふによし 塚(つか)の如くつまれし草に火を放て焔ちぎれて青空にとべ 走り行く舗石(しきいし)の上、走り行く深更(しんか…

第五十四回 『夏より秋へ』與謝野晶子

『夏より秋へ』與謝野晶子(大正三年)<選歌十二首>(全 767 首より) 琴(こと)の音(ね)に巨鐘(きよしよう)のおとのうちまじるこの怪(あや)しさも胸(むね)のひびきぞ 人(ひと)の世(よ)の掟(おきて)の上(うへ)のよきこともはたそれならぬ…

第五十三回 『さすらひ』尾山篤二郎

『さすらひ』尾山篤二郎(大正二年)<選歌10首>(全544首より) 霧(きり)か、闇(やみ)か、樹間(こま)うす青(あを)くただよへりしたいままなる樹木(じゆもく)の呼吸(こきふ) 野(の)のなからひ、闇(やみ)のみどりのいやはてに光(ひか)るも…

第五十二回 『春かへる日に』松村英一

『春かへる日に』松村英一(大正二年)<選歌6首>(全454首より) 白き歯を見せてはよくも笑ひつる女の去りし家に夜の落つ 空の上ほのかに明るみ柔かみ雲の動くが見ゆる夕ぐれ われいつか己が心もうち忘れ夕ぐれ時の来るをば待つ 白き布取れば静かに子はあ…

第五十一回 『涙痕』原阿佐緒

『涙痕』原阿佐雄(大正二年)<選歌4首>(全464首より) この涙つひにわが身を沈むべき海とならむを思ひぬはじめ 生と死のいづれの海にただよへる吾とも知らずいくとせか経む おなじ世に生れてあれど君と吾空のごとくに離れて思ふ 夕されば恋しきかたに啼…

第五十回 『旅愁』内藤鋠策

『旅愁』内藤鋠策(大正二年)<選歌9首>(全221首より) ほととぎす、胡桃若葉の岡つづき小雨に慣れし家のこひしき 鳩喚べば鳩はやさしくさびしげに人を見るなり秋風の家 うつむきてとみに心のおとろへをおもふ人あり夜の雨ぞする 掌(てのひら)の冷たか…

第四十九回 『日記の端より』尾上柴舟

『日記の端より』尾上柴舟(大正二年)<選歌13首>(全577首より) 温泉(ゆ)の烟凝りて流るゝ玻璃の戸に山の椿の一花ぞ濃き 風わたる梢を見ても胸をどるまこと山にて恋しきは海 動きては威をば損ずといひがほに立ちたる山も一言は云へ 新しき疲れの中に昨…

第四十八回 『かろきねたみ』岡本かの子

『かろきねたみ』岡本かの子(大正元年)<選歌8首>(全70首より) 力など望まで弱く美しく生まれしまゝの男にてあれ 血の色の爪に浮くまで押へたる我が三味線の意地強き音 朝寒の机のまへに開きたる新聞紙の香高き朝かな 三度ほど酒をふくみてあたゝかく…

第四十七回 『新月』佐佐木信綱

『新月』佐佐木信綱(大正元年)<選歌11首>(全300首より) あたたかき陸(くが)を慕(した)ひて数千(すうせん)の鳥(とり)むれ渡(わた)る松前(まつまへ)の秋(あき) 長崎(ながさき)の船出(ふなで)の朝(あさ)を小舟(をぶね)漕(こ)ぎ一…

第四十六回 『死か藝術か』若山牧水

『死か藝術か』若山牧水(大正1年)<選歌7首>(全386首より) 蒼(あを)ざめし額(ひたひ)つめたく濡(ぬ)れわたり月夜(つきよ)の夏(なつ)の街(まち)を我(わ)が行(ゆ)く ただひとつ風(かぜ)にうかびてわが庭(には)に秋(あき)の蜻蛉(…

第四十五回 『悲しき玩具』石川啄木

『悲しき玩具』石川啄木(明治45年)<選歌9首>(全194首より) 途中にてふと気が変り、 つとめ先を休みて、今日も、 河岸をさまよへり。 本を買ひたし、本を買ひたしと、 あてつけのつもりではなけれど、 妻に言ひてみる。 家を出て五町ばかりは、 用のあ…

第四十四回 『黄昏に』土岐哀果

『黄昏に』土岐哀果(明治45年)<選歌17首>(全352首より) このー小著の一冊をとつて、 友、石川啄木の卓上におく。 もの思ひつつ、街路を歩めば、 行人の顔の、さもしさよ。 ぺつと唾する。 働くために生けるにやあらむ、 生くるために働けるにや、 わか…

第四十三回『一握の砂』石川啄木

『一握の砂』石川啄木(明治43年)<選歌七首>(全551首より) 大といふ字を百あまり 砂に書き 死ぬことやめて帰り来たれり 飄然と家を出でては 飄然と帰りし癖よ 友はわらへど わが泣くを少女等(をとめら)きかば 病犬(やまいぬ)の 月に吠ゆるに似たり…

第四十二回 『酒ほがひ』吉井勇

『酒ほがひ』吉井勇(明治43年)<選歌12首>(全718首より) 衰へしともなほ知らぬ君見ればああ冷笑ぞ頬にのぼりぬる 歎きつつ三年(みとせ)のまへの相知らぬふたつの世へと別れて帰る ただひとつ心の奥のこの秘密あかさず別る憾(うらみ)なるかな いかに…

第四十一回 『相聞』與謝野寛

『相聞』與謝野野寛(明治43年) <選歌十五首>(全997首より) ころべころべころべとぞ鳴(な)る天草(あまくさ)の古(ふ)りたる海(うみ)の傷(いた)ましきかな 三十(さんじふ)をニ(ふた)つ越(こ)せども何(なに)ごとも手にはつかずてもの思…