Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

本日の一首 ー 岸上大作

血と雨にワイシャツ濡れている無援ひとりへの愛うつくしくする

 福島大樹 『「恋と革命」の死』(2020)皓星社 

 以前に、私は岸上大作にフラれている。とある座談会の休憩中、会員のK氏が「僕は岸上大作が好きだ」と言い、内心、聞いたこともない名前に「誰だそれは……」と、図書館で現代短歌全集だったであろうか、を借り、すぐに頁を開くも、「意味が分からない、小難しくて読み辛い」という感覚で、本を閉じてしまった。引用・参考文献は昨年末に会員の方より頂いた本である。「今の私なら分かるかも知れない」という思いで頂いた。通常、初見の前に、知識や情報を取り込まずに読むように心がけているが、過去に一度、火傷した歌人である。ガイドブックになるかもと読み始めた。歌、それ自体は、下手でも上手くもない。その印象は変わらなかったが、岸上氏の「感情の爆発」への感触は、以前感じた堅さから、氏の持つ純粋さへと変化した。生育歴において、苦しまざるを得ない境遇の中、自然と日記や詩を「書く」ことに依って生き延びて来た、「文学」に救われて来た生涯を、想う。最後の遺書は原稿用紙に一マスずつ四角四面に書き綴りながら、命を絶えたとある。書くことを最期まで信じ続けていた、無心に信じ続けていた、純粋に信じ続けていた。貴い。