Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

現実を貫く力を…(八雁・石川亞弓)

戦争だ敵だとすぐにいいたがるこれだから男ってやつは

                                石川 亞弓

 

 東京五輪パラリンピック大会組織委員会森喜朗会長(83)は3日、日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会で、「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります」と発言した。女性理事を増やすJOCの方針に対する私見として述べた。
 この日の評議員会はオンライン会議で、記者にも公開されていた。森会長は「女性っていうのは競争意識が強い。誰か1人が手をあげていうと、自分もいわなきゃいけないと思うんでしょうね。それでみんな発言されるんです」とも発言。「女性の理事を増やしていく場合は、発言時間をある程度、規制をしないとなかなか終わらないので困ると言っておられた。だれが言ったとは言わないが」などと語った。JOCの評議員からは笑い声もあがった。
 また、「組織委員会に女性は7人くらいおりますが、みなさん、わきまえておられて」とも話した。
 JOCの理事は25人で、うち女性は5人。JOCは女性の割合を40%以上にすることを目標としている。(2021年02月04日朝日新聞

 

 率直に、とても嫌な気分である。この手の男はどこにでもいる。しかし、このような内面をもつ人間がこの地位についていること。この地位にいる人が自分の立場や関わる仕事の意義について深く理解することなく、軽々しく知性を欠いた発言をすること。そして森氏の発言に、下卑た笑いを浮かべたという取り巻きの男たち…。集団になってつるんで、自分とは異質な存在を貶め、排除しようとする、汚い、人間。私は心から嫌悪する。

 

 激しい怒りは、4月、岡村隆史のラジオの時にも感じた。

 23日深夜に放送された「ナインティナイン岡村隆史オールナイトニッポン」。リスナーから寄せられた、新型コロナウイルスの影響で性風俗店に行けないという内容のメールに対し、岡村さんが「コロナが収束したら絶対面白いことあるんですよ。なかなかの可愛い人が、短期間ですけれども美人さんがお嬢やります。これ何でかって言うたら、短時間でお金を稼がないと苦しいですから」などと発言した。(2020年04月29日朝日新聞

 

 このときも、その場にいたスタッフから一同に笑いが生じたという。男たちの、この雰囲気…。弱い者を集団で苛め、軽んじ、貶めて弄び、蔑み笑いながら搾取する。どこから怒っていいかわからなくなる。心が砂になったように空虚だ。

 

 怒りと、悲しみと、深い傷と…

 もう何度、こういう痛みを感じたことか。物心ついたときから、数えきれない。

 ひとつひとつ、反論して、説明するために、自分の怒りと悲しみに向き合う。言葉を探す。そして伝えようと努力して、また傷つく。その繰り返しのはてに、言葉が尽きて、黙るしかなくなる。男性という性に生まれた人は、こういう経験を何度、したことがあるのだろう。この言いようもなく悲しく、悔しく、やり場のない思いを。

 石川さんの歌をめぐっては、男性を一般化しすぎるとの感じ方が相次いだ。

 私は小さな驚きをもってそのことを受け止めた。「性別 + ってやつは」というフレーズを言われたことのない人が、こういう反発を抱くのだろうか。昔、女の子だった私も、きっとこの反発を感じたのだろう。この歌は、愚痴のようなところがあって、生産性のない非難である点に問題がある。しかしながら、「またこういう男が…」「もううんざりだ…やめてくれ」と言いたくなるような嫌な感じが出ている。今回は女性蔑視をする男性を見て、「またこんな男(たち)が…」と、この歌を思い出したわけだが、それは自国の利益や報復のために口角に唾を溜めて戦争をわめきたてる男の姿にも当てはりうる。そういう思考傾向に男女差があるのかは、戦争を決定できるほどの大きな地位に女性が男性と同数かそれ以上の数、進出してみないことには検証できない。今現在、女性よりも男性のほうが多くその立場に立っていることは事実であろう。

 

 八雁では、この歌をめぐっていろいろな意見が出た。いろいろな意見があっていい。私が合評にこの歌を取り上げて以来、私自身、読んでは考え、考えては言葉にしているのだが、何度表現しようとしてもうまくいかなくて、すっきりしない。それは歌そのものの生産性のない愚痴のようなところが、疵になっているからかもしれない。もっと、痛烈な、研ぎ澄まされた、現実を叩き割るような、なにか、そんな強さ。言葉によって現実を鋭く刺し貫き、人々の心を波立たせるような、力。それが、この歌にあったらよかったのかもしれない。