第七十九回 『東京紅橙集』 吉井勇
第七十九回 『東京紅橙集』 吉井勇
<選歌二首>(全三〇七首より)
臙脂(えんじ)の香(か)おしろいの香(か)もなつかしや金春湯(こんぱるゆ)より春(はる)の風(かぜ)ふく
栄竜(えいりう)がゆたかなる頬(ほ)に見入る(みいる)ときはじめて春(はる)の闌(たけはな)を知る
〈メモ・感想〉
「春」という語には、様々な要素や作用が含まれている。何かが始まる。一斉に始まる。この一年を占うような変動する春。勢いづく春。上記二首の「春」は歌の中で上手に活かされ、歌にメッセージをもたらしている。私自身も春を使った歌があるが、無自覚であった。この様な気付きがようやく出来るようになった。
【参考・引用文献】『現代短歌全集』第三巻 筑摩書房(1980)