Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

本日の一首 ー 前川緑(一)  おさらい編

束ねたる春すみれ手に野の道を泣きつつ行けばバスすぎ行きぬ

逐語訳:束ねている春のすみれの花を手に持って野道を泣きながら歩いていると、バスが過ぎていった。

解釈:束ねたるすみれとあるので、摘むのに時間が経っていることが分かる。ずっと泣きながら、野の道を歩  いて行く自分、そこに、バスが自分を通り越して過ぎて行くことで、作者の意識がふと自分から離れる。

 

ゆふぐれの光を劃(くぎ)る窓のなかに草や木のあり靑き葉さやぎ

解釈:夕方の光を外と内に区切りをつける作用のある窓、その窓のなかに草や木があって、それらの青い葉がざわざわと蠢いている。

 

李の花に風吹きはじめ透きとほりたる身をぞゆだねる

逐語訳:すももの花に風が吹き付け始め、透き通った身をまかせささげる。

解釈:すももの花に風が吹きかけ始め、透きとおったこの身体をささげる。

 

野も空も暗い綠のかげらへる景色みるごと君を見はじむ

逐語訳:野も空も暗い緑が暗くなって経る景色を見るようにあなたを見始める

解釈:野も空も暗い緑が翳って時が経った景色を見る様にあなたを見始める。

 

山の手の小公園ゆ望み見る秋の日の海の靑きかがやき

逐語訳:山の手の小公園にて展望する秋の海の青い耀き

 

百年もかかる落葉を踏めるごとうららにさせば冬日かなしき 

逐語訳:① 百年もかかる落葉を踏む度に、明るく穏やかに差す冬の日が愛しい。

     ② 百年もかかった落葉を踏むような春の明るい日が差すと、冬の日が愛しい。

 

<引用・参考文献>

前川緑『現代短歌文庫砂子屋書房 (2009) p20「鳥のゆく空」昭和11年-昭和22年