Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

本日の一首 ー前川緑(ニ) おさらい編

  昭和十二年七月日支事變始まる

この庭はいと荒れにけり下り立ちて見ればしどろにしやがの花咲く

逐語訳:この庭は大変荒れてしまっているなあ、そこに下りて立って見ると、秩序なく乱れてシャガ(アヤメ科の多年草)の花が咲いている。

 

朝闇をつんざきて來る銃の音ただならぬ時を額あつく居ぬ

逐語訳:朝の暗闇を突き破って来る銃の音の尋常ではない時を額はあつく在る

 

奈良に住み西の山見る愁ありその夕雲に包まれする

逐語訳:奈良に住み西の山を見るもの哀しさがあり、その夕雲に包まれてもいる。

 

淺茅原野を野の限り泣く蟲のあらたま響き夜の原に坐す

逐語訳:淺芽原野(という地帯)を野のある限り(野原いっぺんに)泣く虫(や哺乳類)のあらたまが響き、夜の野原に坐っている。

 

秋の光はやくうすれて富みの川べに龍膽つめばわが手に餘る

逐語訳:秋の光は早く薄くなって富みの川辺にてりんどう摘めば我の手に余る。

 

村人に田畑の話聞く秋を山吹の花の忘れ咲きせる

 逐語訳:村の人に田畑の話を聞いている秋を、山吹の花が返り咲いている。

 

*罫線(アンダーライン)を記してある箇所は現時点で不明な点です。

 

<引用・参考文献>

前川緑『現代短歌文庫砂子屋書房 (2009) p21「奈良」