Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

本日の一首 ー 山崎方代

大正三年霜月の霜の降るあした生まれて父の死を早めたり

 何か新しい良い歌は無いかと冊子を開くと、「11月の歌 田村広志選」の欄にこの歌があった。破調である。8・5・5・7・10、35字からこの歌は成る。私がもしこの歌を推敲するならば、おそらく、「霜の降る(あした)」を「霜降る(あした)」としてしまいそうである。が、ここでなぜ「霜の降る」の「の」が必要なのか。反芻してみると見えて来る。この歌は、「霜の降る」で韻律は句切られ、「あした生まれて父の死を早めたり」となるが、意味の連なりは「霜の降るあした」となり、意味の句跨りになっている。何とも洒落た作りである。私はこの歌の、威風堂々とした破調に短歌の誇りを感じた。破調だから何だと言うんだ、という声が聞こえてきそうであった。泣くではないか。自分が親にかけた苦労を自身の生まれた日に偲び、悔恨の意すら持ち堪え、更には、一首に留める。そんな人間の優しさがあるか。それをこれだけの勇気と正義と覚悟でもって伝えたいことを伝える、そんな望まれた破調があるか。諸君!その真っ只中に私も居る。

<引用・参考文献>

『角川短歌 11月号』(2018)より 山崎方代『右左口』

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