Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

本日の一首 ー 詠み人知らず

凍てつきし道げに寒く一人行く一人追いつく冬風のなか

   詠み人知らず

 一目惚れだったと思う。高校の夏休みの課題で、短歌を五首作る宿題が出た。提出後、古典の先生に呼び出され、「毎週十首、短歌を作って来なさい」と言われた。生徒指導担当の恐い先生に言われて、「はい」としか言えなかった。そのうち、大磯で行われた西行祭という歌会(?)を初めとして、「(大磯に)ついて来なさい」と言われ、「はい」としか言えず、何回か歌会に伺った。当時は、何もかも知らないままであったが、今亡きその先生は、『太陽の舟』という結社に属し、熱心に作歌を続け、歌会に臨まれていたと思われる。

 全くの貴重な機会であったとはまるで察しがつかず、同級生のからかいもあって、その期間は、わずか一年半程で終わった。

 上記の歌は、その歌会に欠席なさっていた方の、詠草である。欠席だったので、板書されただけであったが、絶える事無く、未だ、新しい感動をもたらしてくれる一首である。「この歌の様な歌ならば、短歌を続けたい」と言うと、「随分と高望みだな」と、その古典の先生が苦笑いした。

 受験勉強を理由に短歌の提出を断り、それから、二十五年近く経つ。

それでも、音楽、映画、絵画、写真、詩、小説に、この歌が埋没することは無い。

この歌を一枚の大事な絵葉書の様に思い起こして来た。

今ある私の決して頑健ではない覚悟をこの歌は照らす。

私の言葉が、短歌と成ります様に、成り続けます様に。

短歌の美、それを教えてくれた、初めての歌である。

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*当面の間、月曜日・木曜日を目処とした週二回の更新になります。何卒宜しくお願い申し上げます。

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