Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

本日の一篇(一) ー 宇野千代

ものを書こうとするときには、誰でも机の前に坐る。書こうと思うときだけに坐るのではなく、書こうと思ってもいないときにでも坐る。<略>或るときは坐ったけれど、あとは忙しかったから、二、三日、間をおいてから坐るというのではなく、毎日坐るのです。…

本日の一首 ー 玉城徹

学ぶこと第一。第二は作ることぞ。人に知られむは末の末かも 玉城徹 『玉城徹全歌集』 いりの舎 (2017) <メモ・感想> 最近、更に、ぼやっと生活をしてしまっている。掲出歌は、私がちょうど眼を痛めて、焦りに焦っていた際に、阿木津英氏より知らされた…

本日の一首 ー 玉城徹

石をもて彫りたるごときはくれんの玉のつぼみの恋ほしきものを チュリップのま白き花を露一つすべりて落つと見し日はるけし 松原に遊歩の道のとほれるに人ふたりありてやぶ椿の花 三女性おじぎうやうやしくパフェ退治見れば若からず美しからず 玉城徹 『玉城…

第七十九回 『東京紅橙集』 吉井勇

第七十九回 『東京紅橙集』 吉井勇<選歌二首>(全三〇七首より) 臙脂(えんじ)の香(か)おしろいの香(か)もなつかしや金春湯(こんぱるゆ)より春(はる)の風(かぜ)ふく 栄竜(えいりう)がゆたかなる頬(ほ)に見入る(みいる)ときはじめて春(…

第七十八回 『翡翠』片山広子

第七十八回 『翡翠』片山広子<選歌三首>(全三〇〇首より) わが指に小さく光る青き石見つつも遠きわたつみを恋ふ あめつちのちひさきことのみが我が黒き眼にかろく映りぬ くれなゐのうばらの花に白う咲けとのたまはすなりせまきみここころ 〈メモ・感想〉…

本日の一首 ー 喜多昭夫

君はいつもわき目もふらず立ちあがるコーヒーカップの縁を拭ひて 喜多昭夫『哀歌ー岸上大作へ』八雁・第56号 (2021) <メモ・感想> 「八雁」第56号の中より抜粋するにあたり、一番分かり易く、一番思いやりの感じられる一首を目指して今号を読んだ。『哀歌…

本日の一首 ー 吉田佳菜『からすうりの花』

『はなぶさむら』より引用 (文責・関口) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 〈選歌十首〉 吉田佳菜 『からすうりの花』 国際メディア(2015) 久びさに訪ねくる人待ちわびて部屋ごとに置く水仙の花 花びらはわが頬に髪に乱れ立ちつくしたり…

八雁10首選(2021年1月号)

2021年1月号の八雁から十首選んで覚書。 婚前のあの日義母よりわたされし黒水牛の印鑑は岡 (岡由美子) 結婚前に、新姓の黒水牛の印鑑を義母からもらうということの意味するところ、言外のメッセージがひしひしと伝わってきた。 風わたる外階段のつづら折り…

本日の一首 ー 石田比呂志『冬湖』

鳥だって虫だってあの魚だって自分の居場所くらい知ってる 夜半覚めて時計の針を確かめてお臍の穴を覗きて眠る 今日もまた雀がしたり顔に鳴く短歌単純化、短歌単純化 短歌とはよんでくださるあなたへの灯ともしごろの愛の小包 飛ぶ鳥は必ず堕ちる浮く鳥は必…

梅を詠んだ歌

梅が咲き満ちている。昼は白や紅に樹全体がけぶり、鳥が鳴き集う。夜は濃く甘い香りが漂い、心惹かれる。詠いたいのに、どこから詠っていいかわからない。梅という題材は、どのように詠まれてきたのだろう。 我がやどの梅の下枝に遊びつつ鶯鳴くも散らまく惜…

短歌覚書(工藤貴響『八雁』)

かなしみの向こう側なる冬空に機体は白きひかりを走らす 工藤 貴響『八雁』2021年1月号 【逐語訳】 かなしみの向こう側にある冬空に機体は白いひかりを走らせる 【鑑賞】 かなしみがあって、その向こう側に冬空がある。晴れているのだろう、そこにきらりと…

本日の一首 ー 島田幸典『no news』

婚控えやさしき女友だちは襟の糸屑さらりと摘めり 島田幸典『no news』(2002)砂子屋書房 <メモ・感想> 良い歌を、自分が良いと思える歌を、この場でお伝えしたくここまで来た。しかし、寂しかったことがある。それは、短歌を始めてから、短歌以外の、主…

歌集覚書 髙橋則子『窓』

ひろげたるつばさの内らほの白く下り来るなり春のくもりを 来て動くこの単純を見むと寄る窓ちかぢかと地面に雀 目覚めゆく眼につぎつぎに啼きながら雀枝につく夢の如くに いくたびと思ひまたおもひ亡き人のことばたちくる活きいきとして ひともとのとほき青…

本日の一首 ー 髙橋則子『窓』

遅き日の曇る日くれてわれひとり居るこの部屋に菜の花零る 柔らかき若葉動きて鉛筆を削りつつゐるわが朝の窓 人のなきあとを生きつぎわが胸に残る声音は暗鬱のこゑ 星一つ月をさかりて白雲をさかりかがやく風のすずしさ わが顔に似合はぬ帽子いつかはとおも…

本日の一首

手相見の前に未来の在りし日や 鏡に春の口紅をひく 八雁会員O氏『現代短歌』No.83(2021)現代短歌社 p128 <メモ・感想> 八雁会員O氏の歌である。読者歌壇にて久々湊盈子氏の特選に入っていた。歌評には「一字あけたところがミソで、作者は口紅を引いて鏡…

本日の一首 ー 俵万智『サラダ記念日』

長江を見ていたときのTシャツで東京の町を歩き始める 「人生はドラマチックなほうがいい」ドラマチックな脇役となる ハンカチを忘れてしまった一日のような二人のコーヒータイム 俵万智『サラダ記念日』(1986)河出書房新社 <メモ・感想> 「生きることが…

第七十七回 『無花果』若山喜志子

第七十七回 『無花果』若山喜志子(大正四年)<選歌七首>(全四六八首より) あなやこはゆく手もはても薄氷(うすらひ)のわが世なりけり何ふむべしや この家のぬちわれがうごくも背(つま)がうごくも何かさやさやうたへる如し まづしくあらば刺して死な…

本日の一首 ー 黒瀬珂瀾『ひかりの針がうたふ』

手に取れば冑蟹(かぶとがに)は身を反らしたり海立つとき吾もをさなし 見え難き世界の罅をさぐるごと妻はテープの切れ口さがす 眠りゐる妻と児を部屋に鎖(とざ)したる昧爽の鍵にぶく光るも やよひはやくも花ちりそむを助言など無視せよといふ助言たまはる…

第七十六回 『春の反逆』岩谷莫哀

第七十六回 『春の反逆』岩谷莫哀(大正四年)<選歌六首>(全四ニ三首より) 帽子をかぶりいそいそとして家を出でぬさていづかたへ足をはこばむ 何となう心うれしきこの寝ざめ春は障子をおとづれにけり みづからにつらくあたりて見むかともふと思ひけり蟬…

本日の一首 ー 村山寿朗

この長き坂を登るに自転車を降りて押す日がやがてくるべし 村山寿朗(2001年<牙>11月号) 石田比呂志 ここに歌ありー<牙>ー作品鑑賞(2003)松下印刷 元来は生粋の出不精である私。転居して手狭な住処に移り、コロナ太りも気になって、午前中は散歩をす…

現実を貫く力を…2(八雁・石川亞弓)

前回、石川亞弓さんの歌、 戦争だ敵だとすぐにいいたがるこれだから男ってやつは について、「生産性のない愚痴のようなところが、疵になっている」と書いたのだが、自分の中でもう少しはっきりと言葉にしておきたい。 私が最初にこの歌をいいと思ったのは上…

第七十五回 『片々』山田邦子

第七十五回 『片々』山田邦子(大正四年)<選歌三首>(全三〇一首より) 自らの心かき裂き引きむしり狂へりし間に児は這ひそめぬ 我つひに母となりけり海に来てつくづく肌の衰へを知る 家をおき児を見に来たる淋しき女をとがめ給ふな 〈メモ・感想〉 『片…

現実を貫く力を…(八雁・石川亞弓)

戦争だ敵だとすぐにいいたがるこれだから男ってやつは 石川 亞弓 東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長(83)は3日、日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会で、「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります」と発…

本日の一首 ー 大西民子

インタービュウを終て来てくだる丘の道風にとぎれつつ麦笛聞ゆ わが教へし舟歌(バルカロール)今も忘れずと何故に書き来しや母となれる教へ子 (『まぼろしの椅子』) 天日(天日)にまたさらされぬ音もなくあきたるドアをまろび出づれば モデルなどありて…

本日の一首 ー 岸上大作

血と雨にワイシャツ濡れている無援ひとりへの愛うつくしくする 福島大樹 『「恋と革命」の死』(2020)皓星社 以前に、私は岸上大作にフラれている。とある座談会の休憩中、会員のK氏が「僕は岸上大作が好きだ」と言い、内心、聞いたこともない名前に「誰だ…

本日の一首 ー 小野葉桜

森(しん)として寝静まりたる下町の家並をかぞへ行きかへるかな 久しぶりの雨の音聴き秋の朝の疲れ心をぢっと伏し居り 夕曇るおほわたつみの静けさよゆるき傾斜地(なぞへ)に蕎麦の花咲き 小野葉桜 『悲しき矛盾 小野葉桜遺稿歌集』(1987)ふるさと双書 若…

本歌取りの妙(北原白秋)

春過ぎて夏来たるらし白妙のところてんぐさ取る人のみゆ 北原白秋『雲母集』 今日はいいお天気で、昼食を摂っていると遠くのマンションに洗濯物か何か干すのが見えた。「衣ほすてふ」という持統天皇の歌が頭を過ぎって、(季節は違えど)現代に置き換えたら…

本日の一首

派手派手のスパンコールのマスクして友とはしゃぎ行く中華街 第八十八回 八雁横浜歌会(2021年1月24日) 関口智子 言葉にならない程の意義深い大目玉を喰らった私自身の歌である。阿木津英氏はこの歌に関して、「凄く嫌な感じが残る」、「目立ちたいという心…

強制力としての破調(大森静佳)

ずっと味方でいてよ菜の花咲くなかを味方は愛の言葉ではない 大森静佳 初句、「ずっと味方でいてよ」はかぎかっこで括ることのできる呼び掛けの言葉である。相手が裏切ることを半ば想定していて、先回りして釘を刺したり言質を取ったりするような感じがある…

本日の一首 ー 川野芽生

ブラインドに切り裂かれつつ落つるとき冬日も長き睫毛伏せをり 記憶とは泥濘(ぬかるみ) 気泡はきながら紅茶のうづへ檸檬が沈む たくさんの名前が出ては消えてゆく手紙に封を 薄紅の封 夢ぬちに橋のやうなるもの踏みき春とわが蹄とほのひかる 友人のすべて…